選評

『花はさくら木』(朝日新聞出版)

  • 2017/11/04
花はさくら木 / 辻原 登
花はさくら木
  • 著者:辻原 登
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(462ページ)
  • 発売日:2009-09-04
  • ISBN-10:4022645032
  • ISBN-13:978-4022645036
内容紹介:
江戸時代中期、宝暦十一(1761)年。文化の爛熟期を迎えた京・大坂を舞台に、即位前の女性天皇・智子内親王(後桜町)や田沼意次が大活躍する。人・歴史・地理があやなす、恋と冒険あふれるとびきりの時代小説。大佛次郎賞受賞作がついに文庫化。

大佛次郎賞(第33回)

受賞作=田草川弘「黒澤明vs.ハリウッド『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて」、辻原登「花はさくら木」/他の選考委員=川本三郎、髙樹のぶ子、山折哲雄、養老孟司/主催=朝日新聞社/発表=同紙二〇〇六年十二月二十二日

シェイクスピアの味わい

辻原登氏の『花はさくら木』には、シェイクスピア喜劇をそのまま小説に移したような豊かさがある。人ちがい、入れ替わり、奇想(都の地下を疾走する異形の飛脚たち)、そして台詞(せりふ)の修辞と冴(さ)え。

一方では、「悪人」田沼意次を経済人として見直すなど、随所に新解釈を織り込み、「歴史ロマン」にありがちな凡庸さの罠(わな)からみごとに逃れ去っている。築城と水上交通についての記述には、目をみはるようなおもしろさがある。

田草川弘氏の『黒澤明vs.ハリウッド』における、悲劇的な運命を予感しながらも、そこへ引きずり込まれて行く黒澤明と、彼が描こうとした山本五十六。この二人の運命は、悲劇の中へ突っ込んで行くシェイクスピアの王たちと、どこか似ている。つまり、なぜ黒澤が山本を描きたかったのか、なぜそれに失敗したのか、それがよくわかる。

「トラ・トラ・トラ!」のシナリオの断片が、やがて一本の、統一されたシナリオになって行くという構成もすばらしい。なによりも、黒澤乱心の場面の凄(すご)さ。この凄さは、著者が発掘したアメリカ側資料がもたらしたもので、その骨折りに深く敬意をはらいたい。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • 発売日:2010-02-01
  • ISBN-10:4560080380
  • ISBN-13:978-4560080382
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

花はさくら木 / 辻原 登
花はさくら木
  • 著者:辻原 登
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(462ページ)
  • 発売日:2009-09-04
  • ISBN-10:4022645032
  • ISBN-13:978-4022645036
内容紹介:
江戸時代中期、宝暦十一(1761)年。文化の爛熟期を迎えた京・大坂を舞台に、即位前の女性天皇・智子内親王(後桜町)や田沼意次が大活躍する。人・歴史・地理があやなす、恋と冒険あふれるとびきりの時代小説。大佛次郎賞受賞作がついに文庫化。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年12月22日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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