選評

『鉄塔家族』(日本経済新聞社)

  • 2018/08/05
鉄塔家族 / 佐伯 一麦
鉄塔家族
  • 著者:佐伯 一麦
  • 出版社:日本経済新聞社
  • 装丁:単行本(548ページ)
  • ISBN-10:4532170656
  • ISBN-13:978-4532170653
内容紹介:
東北のある地方都市で暮らす小説家・斎木、草木染作家・奈穂と、街のシンボル「鉄塔」の麓で暮らす人たちの平穏な日常には過去の暗い影がつきまとう。しかし、自然に抱かれた生活に見出すささやかな歓びと、お互い引かれ合う人たちが、彼らの疵を癒し、新たな家族をつくる。細密な描写で人間の勁さに迫る待望の長編小説。

大佛次郎賞(第31回)

受賞作=佐伯一麦「鉄塔家族」、若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国」/他の選考委員=川本三郎、髙樹のぶ子、山折哲雄、養老孟司/主催=朝日新聞社/発表=同紙二〇〇四年十二月二十三日

長編の身辺雑記に成功

あの宣教師の時代に、厖大(ぼうだい)な量の日本見聞録が書かれたが、若桑みどりさんのこの二段組み五百余頁の大著は、その選択的な一大集成である。

そこに浮かび上がるのは、当時の日本と世界との躍動しつつ激変する巨大な歴史のうねり。そのうねりの中を少年たちは、はるばるローマを目指す……当時の日本と世界の様子が丸ごとわかる本だ。少年使節のローマ体験を、若桑さんはご自分のローマ体験と重ねているので、いたるところで文章が生き生きと弾み、その快い弾みに乗ってあっという間に読みあげてしまった。

佐伯一麦さんの『鉄塔家族』は、地方都市の丘の上に巨大な鉄塔が完成するまでの、付近の人びとの身辺雑記の体裁を装った大長編である。

身辺雑記と大長編、水と油のようだが、文章がいいから、つい読まされてしまううちに、主人公の別れた妻の影がゆっくりと姿を現してくる。この前妻とのやりとりは切実で、哀(かな)しく、不謹慎かもしれないが、むやみにおもしろい。そして読み終わったとき、わたしたちが噛(か)み締めるのは、「この世で片付くことはなにもない。すべて普請中」という人生の苦さである。身辺雑記で大長編を書くという実験的な試みはみごとに成功した。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • 発売日:2010-02-01
  • ISBN-10:4560080380
  • ISBN-13:978-4560080382
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

鉄塔家族 / 佐伯 一麦
鉄塔家族
  • 著者:佐伯 一麦
  • 出版社:日本経済新聞社
  • 装丁:単行本(548ページ)
  • ISBN-10:4532170656
  • ISBN-13:978-4532170653
内容紹介:
東北のある地方都市で暮らす小説家・斎木、草木染作家・奈穂と、街のシンボル「鉄塔」の麓で暮らす人たちの平穏な日常には過去の暗い影がつきまとう。しかし、自然に抱かれた生活に見出すささやかな歓びと、お互い引かれ合う人たちが、彼らの疵を癒し、新たな家族をつくる。細密な描写で人間の勁さに迫る待望の長編小説。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年12月23日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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