書評
『ひとり日和』(河出書房新社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
◎「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
第百三十六回芥川賞を、選考委員から圧倒的な高い支持を受けて受賞した『ひとり日和』の語り手は二十歳の〈わたし〉。大学には行かず、いろんなアルバイトをしながら母親に寄生していたのですが、その母親が教師同士の交換留学で中国へ行くのを機に、遠い親戚筋にあたる七十代のおばあさん・吟子さんの家に居候することになります。だめんずな彼氏との温度の低い恋愛と別れ。キオスクのアルバイトをして知り合った藤田君との、なんとなく始まった恋とその自然消滅。フリーター女子のふわふわした日常が、コストがあまりかかっていない現場リボート風の文章によって綴られた退屈な小説なんですの。
ダンボールの荷物をほどくのを手伝ってくれる吟子さんの背中を見て、〈いたわってやらねばいけないんだろうな、と苦々しく思〉ったり、テーブルの上にこぼしたチョコのかけらを、〈母が座っていた椅子のほうにささっと手で払〉ったり、〈周りの人の持っているちょっとしたものを狙ってコレクションに加えていく〉手くせの悪さがあったりと、ちょっとした陰険さをまとう主人公のキャラクター造型をもって、都知事はニヒリズムだのソリチュードだのといった賛辞を連ねたんでありましょうが、結局その程度にすぎないんですよ。七十歳を過ぎたジジイでも安心して受け入れたり、理解が示せたりできる程度の、ぬるい悪意。最後は独り立ちして正社員になってしまうような、安全パイの若者像。そんな小説のどこが面白いのか、あたし、全然わかんなぁーい。
青山さんは、朝日の夕刊に掲載された記念エッセイを、「お電話代わらせていただきました、青山でございます」という、授賞を知らせる電話を受けた時の言葉から始めていますが、つまり、そういう脇の甘い文章を平気で書けてしまう人なんでありましょう。とりあえず「いただきました」つけておきゃ、へりくだったことになるんだろ、そんな程度の言葉への意識。そんな程度の作家に授賞する芥川賞。こんなもんもらわなくてよかったねっ、中原昌也さん。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
◎「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
都知事にベタ褒めされたのが災難だと思って
芥川賞を獲ったのが運の尽きと思って諦めて下さい。石原都知事から「ニヒリズムに裏打ちされた都会のソリチュードを描いて圧倒的にいい。村上龍さんのデビュー作に近いビビッドで鮮烈な描写があった」と、いかにも文学知能指数が低い言葉でベタ褒めされたのが災難と思って絶望して下さい。ごめんね、青山七恵さん、わたしはあなたの小説に美点を見つけることがとうとう出来なかったんですの、二度読み直してすら。第百三十六回芥川賞を、選考委員から圧倒的な高い支持を受けて受賞した『ひとり日和』の語り手は二十歳の〈わたし〉。大学には行かず、いろんなアルバイトをしながら母親に寄生していたのですが、その母親が教師同士の交換留学で中国へ行くのを機に、遠い親戚筋にあたる七十代のおばあさん・吟子さんの家に居候することになります。だめんずな彼氏との温度の低い恋愛と別れ。キオスクのアルバイトをして知り合った藤田君との、なんとなく始まった恋とその自然消滅。フリーター女子のふわふわした日常が、コストがあまりかかっていない現場リボート風の文章によって綴られた退屈な小説なんですの。
ダンボールの荷物をほどくのを手伝ってくれる吟子さんの背中を見て、〈いたわってやらねばいけないんだろうな、と苦々しく思〉ったり、テーブルの上にこぼしたチョコのかけらを、〈母が座っていた椅子のほうにささっと手で払〉ったり、〈周りの人の持っているちょっとしたものを狙ってコレクションに加えていく〉手くせの悪さがあったりと、ちょっとした陰険さをまとう主人公のキャラクター造型をもって、都知事はニヒリズムだのソリチュードだのといった賛辞を連ねたんでありましょうが、結局その程度にすぎないんですよ。七十歳を過ぎたジジイでも安心して受け入れたり、理解が示せたりできる程度の、ぬるい悪意。最後は独り立ちして正社員になってしまうような、安全パイの若者像。そんな小説のどこが面白いのか、あたし、全然わかんなぁーい。
青山さんは、朝日の夕刊に掲載された記念エッセイを、「お電話代わらせていただきました、青山でございます」という、授賞を知らせる電話を受けた時の言葉から始めていますが、つまり、そういう脇の甘い文章を平気で書けてしまう人なんでありましょう。とりあえず「いただきました」つけておきゃ、へりくだったことになるんだろ、そんな程度の言葉への意識。そんな程度の作家に授賞する芥川賞。こんなもんもらわなくてよかったねっ、中原昌也さん。
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