書評
『たんじょうびおめでとう』(こぐま社)
失敗は共感のもと
ボタンはめようとする子を見守ればういあういあと動く我が口今月三歳になったばかりの息子。おやつのカステラと牛乳をたいらげたあと、いそいそとお皿とコップを持って、台所に運んでくれる。(事務局注:本書評収録単行本初版は2009年)
「わあ、たすかるわあ。食べたあとは、お手伝い。こぐまちゃんと一緒だね。すごいね」と褒(ほ)めると、えっへんと胸をはって、誇らしげだ。
『たんじょうびおめでとう』は、こぐまちゃんが三歳になるお話だ。三歳になったこぐまちゃんは、一人で起きたり、歯を磨いたり、着替えをしたり……いろんなことができるようになる。食べたら片づける、というのもその一つで、息子は明らかにこれに影響されている。こぐまちゃんが苦手なボタンかけにも、挑戦中だ。
実はこの本、二歳の誕生日のころに買ったものだった。同じ著者による『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社・八四〇円)を、息子がいたく気に入って、家で何度もホットケーキを焼かされていたので、「二歳と三歳の違いはあるけれど、まあ誕生日の本ということで」と思い、購入したのだった。
が、どうも反応は今ひとつ。やはり二歳は二歳、三歳は三歳のようで、ろうそくが三本たったケーキや、三歳という言葉には、興味が湧かないようだった。考えてみれば、三歳児は二歳児の、一・五倍もの人生を生きている。これは、結構なへだたりかもしれない。
それが三歳が目の前になると、にわかに現実味を帯びた絵本として、この一冊はお気に入りとなった。そそられるきっかけや、好きになるタイミングというのが、絵本にはあるのだなあと、あらためて思わせられる。
ところで、このこぐまちゃんやしろくまちゃん、どんな時も同じ表情をしている。嬉しい時も、失敗した時も、常に口はへの字に結ばれたままだ。
なんだかお面みたいで、最初はこれが、私は気になった。もうちょっと表情豊かなほうが、子どもも楽しいのでは?と思った。
が、まったくそれは杞憂(きゆう)で、繰り返し読むうちに、同じ表情に見えたものが、無数の表情になりうるのだということに気づかされた。ぬいぐるみが無数の表情を持つのと、似ているかもしれない。
そして、この二冊の絵本の魅力は、くまちゃんたちが、いろいろ失敗するところだ。
ホットケーキを作ろうとして、たまごを落としてしまうところや、粉をまぜるときにぼろぼろこぼしてしまうところ。朝ご飯を口のまわりにつけてしまうところや、鉄棒にぶら下がろうとして落ちてしまうところ。こういう場面になると、息子はとんでもなく嬉しそうな顔をする。実際にホットケーキを作ったときも、わざと粉をこぼして大はしゃぎしていた。
失敗もするくまちゃんだからこそ、好きになって真似をするのだろう。なんでもできるいい子がお手伝いをする話なんて、つまらない。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2006年11月30日
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