書評

『パンク侍、斬られて候』(角川書店)

  • 2018/02/06
パンク侍、斬られて候  / 町田 康
パンク侍、斬られて候
  • 著者:町田 康
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(360ページ)
  • 発売日:2006-10-01
  • ISBN:4043777035
内容紹介:
江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。圧倒的な才能で描かれる諧謔と風刺に満ちた傑作時代小説。
本作をひとことで言うなら、「時代劇」の形式を借りて書かれたスラプスティックな法螺(ほら)話である。「スラプスティック」と言われてもピンとこないなら、落語や講談を連想してくれてもいい。基本は「笑い」だが、この「法螺話」はときに「ホラー小説」ばりの恐ろしい心理劇ともなるので、読んでいて気が抜けない。とにかくこれは、普通の時代劇ではないのである。

掛十之進という素浪人が黒和藩の城下に現れ、巡礼の老人を無残に斬(き)り殺す。諸国に蔓延(まんえん)する恐るべきカルト教団「腹ふり党」の一味だというのだ。この教団退治の請負を名目に、十之進が藩への召し抱えを求めるところから物語は始まる。

十之進によれば「腹ふり党」は「この世は宇宙規模に巨大な条虫の腹中に存在する虚妄の世」だと信じており、「真正世界」へ脱出するため、奇妙なうなり声をあげつつ集団でところ構わず腹を前後に振り続けるという。

十之進の本性が詐欺師であることはたちまち見抜かれるが、藩内の権力抗争のコマとして利用価値ありと判断され、めでたく仕官がかなう。だが密偵の報告ですでに「腹ふり党」が滅亡していることが判明。進退窮まった十之進は、元幹部の茶山半郎に「腹ふり党」を再建させ、それを討伐するという自作自演の八百長を発案するが、茶山のカリスマ的魅力のもと、「腹ふり党」は劇的にその勢力を拡大してしまう。

かくして城下は混乱するが、猿回し見物に出ていて事なきを得た藩主の直仁は、「腹ふり党」撃滅のために人語を解する「大臼」という猿の指揮する軍団の導入を決意。クライマックスとなる猿軍団と「腹ふり党」の血みどろの対決は、決着がつかないまま終わる。

シュールレアリスティックな結末の後に残るのは、空に響きわたる虚無的な哄笑(こうしょう)のみである。作者にとっての「パンク」とは、ドタバタ騒ぎのあとに訪れる、どうしようもないこの虚無感のことなのだろう。
パンク侍、斬られて候  / 町田 康
パンク侍、斬られて候
  • 著者:町田 康
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(360ページ)
  • 発売日:2006-10-01
  • ISBN:4043777035
内容紹介:
江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。圧倒的な才能で描かれる諧謔と風刺に満ちた傑作時代小説。

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初出メディア

共同通信社

共同通信社 2004年4月1日

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