書評

『猫のエルは』(講談社)

  • 2018/12/26
猫のエルは / 町田 康
猫のエルは
  • 著者:町田 康
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(138ページ)
  • 発売日:2018-09-28
  • ISBN-10:4065129680
  • ISBN-13:978-4065129685
内容紹介:
猫の眼で、世界はこんなふうに見えている。文章と絵で贈る、5つの猫の物語。

猫の言語能力

町田康といえばプードルのスピンクが綴る「スピンク日記」シリーズが人気である。犬の目で見た飼い主ポチの日々。だから町田康は犬派だと思っている人もいるかもしれないが、じつは猫派でもある。雑誌「猫の手帖」連載はじめさまざまな雑誌で猫との暮らしを書いていて、「猫のよびごえ」など猫エッセイもたくさん書いている。『猫のエルは』はヒグチユウコの絵をふんだんに載せた贅沢な作品集。猫の目で見た、あるいは人間の目で猫を見た、五つの小説や詩が入っている。『告白』『ギケイキ』とはちょっと違う町田康の世界が広がる。

「諧和会議」は、言葉を話す動物たちが会議をひらく話。日本の国会のパロディーのようでもあり、ケストナーの『どうぶつ会議』のパスティーシュ(作風模倣)のようでもある。ここで議題となるのは猫の生態について。彼らが周囲の迷惑となる行為をするのは、言語を理解していないからなのか、それとも理解した上でわざとのことなのか。日ごろわたしたちが猫について抱いている疑問そのままだ。動物たちは猫の言語能力に関する調査委員会を設置するが……。

表題作は〈私の家には猫はいない/猫はいないがエルがいる〉と始める詩。最後、〈見ているだけで儲け〉のリフレインがいい。

「スピンク日記」シリーズ愛読者におすすめは、「とりあえずこのままいこう」だ。語り手の「私」は犬だったが、病気で死んでしまう。冥界から再び犬となって元の家に戻ることを希望した「私」は、手違いで猫に転生してしまうのだが……。最後の絵に涙がこぼれそうになる。
猫のエルは / 町田 康
猫のエルは
  • 著者:町田 康
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(138ページ)
  • 発売日:2018-09-28
  • ISBN-10:4065129680
  • ISBN-13:978-4065129685
内容紹介:
猫の眼で、世界はこんなふうに見えている。文章と絵で贈る、5つの猫の物語。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2018年12月28日号

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