書評
『おそめ―伝説の銀座マダム』(新潮社)
【名著 味読・再読】伝説のマダムを描く傑作
「おそめ」こと上羽秀の評伝。祇園の芸者としてキャリアをスタートし、戦後は京都・木屋町と東京・銀座でバーや高級クラブを経営、「空飛ぶマダム」と呼ばれた絶頂期を迎える。本書の白眉はその後の凋落の物語にある。時代とずれ始め、落ちぶれても、滅茶苦茶な金銭感覚で、周囲が意見をすると「物もお金も残す気持ちなんかありまへん、うちが残したいのは名前だけ」と啖呵を切る。
おそめの爆発的な成功と、意外に早かった凋落が教えてくれるのは、商売の理屈で割り切れない部分である。本書には、商売の面白さ、楽しさ、美しさ、難しさ、怖さ、深さ、哀しさなどがすべて詰まる。秀の人生を象徴的に描くエンディングも素晴らしい。一読して唸る、傑作だ。
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