書評

『長くつ下のピッピ』(岩波書店)

  • 2018/04/17
長くつ下のピッピ ) / アストリッド・リンドグレーン
長くつ下のピッピ )
  • 著者:アストリッド・リンドグレーン
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2000-06-16
  • ISBN:4001140144
内容紹介:
世界一強い女の子ピッピのとびきりゆかいな物語。となりの家に住むトミーとアンニカは、ごたごた荘でサルと一緒に自由気ままに暮らしているピッピがうらやましくてなりません。90年刊の新版。

たっぷりの本に囲まれて

  子の友のママが私の友となる粘土で作るサンタのブーツ

息子がサンタさんにお願いするプレゼント、クリスマスの直前までころころ変わるので、はらはらさせられた。

「むずかしいパズルがいい」「やっぱりボウケンジャーの電話にする」「アンパンマンのパソコンに決めたよ」「ケーキでも、いいのかな」

紆余曲折を経て、幼児雑誌にのっていたオモチャに決まったが、その過程で「ほん」という発想が出てこなかったのが、私としては、寂しい。

自分が幼いころは、クリスマスにサンタさんにお願いするものといえば、本に決まっていた。十二月になると、母と一緒に本屋さんへ足を運び、どの本をお願いするか、時間をかけて選んだ。そのときに決めた本が、いつも枕元に置かれているので、「どうしてサンタさんには、わかるんだろう。すごいなあ」と思っていた。小学五年生ぐらいまで、そうだった。

『いやいやえん』(中川李枝子作、大村百合子絵、福音館書店・一三六五円)や『長くつ下のピッピ』といった懐かしい本たち。いずれもサンタさんにもらって、繰り返し繰り返し読んだものだ。借りたものではない、自分の本というのは、特別な存在だった。

息子も、大の本好きで、本を読まずに終わる日はほとんどない。本屋さんや図書館に行こうと言うとニコニコするし、宅配便で毎月届く幼児向けの本も、楽しみにしている。ピンポーンとドアチャイムが鳴ると、「あっ、ごほんがきたのかな」と顔がぱっと明るくなる。

けれど、年に一度のプレゼントとなると、本は候補の一つにもならない。それだけありふれた日常のもの、ということなのだろう。はて、それがいいことなのか、どうなのか。

最近引っ越しをしたので、あらためて思ったのだが、息子は実にたくさんの本を持っている。これもよさそう、あれもおもしろそう、こんなのも喜ぶかも……と、ついつい私が買ってしまった結果なのだが、これでは本に対する愛着とか憧れとか、そういう気持ちが育ちにくいのでは、と危惧している。

小学生のころ、毎日本を借りてきては一気に読んでしまう私に、母が言った。

「その本、書いた人はどれぐらいかかったのかな。そんなに早く読んでしまったら、なんだかかわいそう」

本の作者というものを、それまで意識したことがなかったので、これはとてもショックな一言だった。以来、ていねいに読もうという気持ちが芽生えたことを思い出す。

たっぷりの本に囲まれながら、大切に読む姿勢を身につける……息子には、ぜひそうなってほしい。母のような一言を、自然なタイミングで、いつか自分も口にすることができるだろうか。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私  / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN:4022646667

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長くつ下のピッピ ) / アストリッド・リンドグレーン
長くつ下のピッピ )
  • 著者:アストリッド・リンドグレーン
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2000-06-16
  • ISBN:4001140144
内容紹介:
世界一強い女の子ピッピのとびきりゆかいな物語。となりの家に住むトミーとアンニカは、ごたごた荘でサルと一緒に自由気ままに暮らしているピッピがうらやましくてなりません。90年刊の新版。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年12月20日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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