書評
『幇間の遺言』(集英社)
【名著 味読・再読】「最後の幇間」の回顧録
幇間と書いて「たいこもち」と読む。子どもの頃の歌舞伎声色から始まり、落語、常磐津、日本舞踊と、さまざまな芸を習得するうちに行き着いた総合芸としての幇間。とにかく芸事が好き。好きだからよく働く。芸を磨く。芸が優れているのはもちろんだが、お客を喜ばせるためには"人の心"が分からなければならない。すなわち、人間洞察である。教養といってもよい。現場でのたたき上げの知性に心を打たれる。
何よりも、一つの道を究めた人だけがもつ品格がある。口絵写真の顔に痺れる。何とも言えない深みがある。どんな分野であろうと、プロの仕事は「芸」である。そこにプロフェッショナルの生命線がある。プロとは何かを教えてくれる名著だ。
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