書評

『進駐軍時代と車たち―マッカーサー時代のカー・ウォッチング』(グリーンアロー出版社)

  • 2018/08/06
進駐軍時代と車たち―マッカーサー時代のカー・ウォッチング / 車屋 四六
進駐軍時代と車たち―マッカーサー時代のカー・ウォッチング
  • 著者:車屋 四六
  • 出版社:グリーンアロー出版社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:1995-11-00
  • ISBN-10:4766331796
  • ISBN-13:978-4766331790
内容紹介:
進駐軍とともに日本にやってきたのは、チョコレート、チューインガム、そしてピカピカの大型の乗用車だった。進駐軍時代が青春時代だった著者が、乗ったり見たりした懐かしの車をとおして時代を振り返る。

メーカーに「夢」があったころ

最近はごくふつうの若者も外国製の車に乗っている。円高も手伝って国産車より値段が安ければあたりまえだろう。ガイシャだからステイタスシンボルとはかぎらない。ベンツやポルシェでなく、キャデラックやリンカーンなどのいまでは侮蔑(ぶべつ)の対象にすらなっている大型のアメリカ車が垂涎(すいぜん)の的だった時代は遥(はる)か遠景にある。

慶応ボーイ時代に進駐軍に出入りしたことがきっかけで外車の虜となった著者は、つぎつぎと恋人を変えるように新しい外車、珍しい外車を愛した。愛してはまた取り替えた。大金持ちのドラ息子なら腹が立つがそうではなく涙ぐましい努力、情報収集の成果で格安で入手するところがよい。筋金入りで、とうとう修理屋になり、さらに販売も手掛けた。レーサーもやった。ガソリンスタンドも経営した。モータージャーナリストの草分けにもなった。

だから写真が豊富に挿入されている本書を読めば、カーマニアでなくても見とれる。エピソードもふんだんに詰まっている。昭和二十年代、三十年代がどういう時代であったか、僕はあらためて知った。なぜ外車が最近まで不当な高価格で売られてきたのか、という謎(なぞ)も自ずから説明されている。

国産車についても興味深い。ラビットというスクーターが発案されたのは、倉庫に眠っていた中島飛行機製の爆撃機の尾輪タイヤを利用するためだったとか、現在はスチール家具メーカーとして知られる岡村製作所が一九五九年にミカサという斬新(ざんしん)なデザインの小型車をつくっていたなど。写真を見るとなんとニッサンのフィガロそっくりではないか。いやフィガロがそっくり、と言い換えなければいけない。ダイハツ・ビーという三輪型の乗用車の写真もある。このスタイルがまたニクい。自動車メーカーといえば大企業を連想するが、当時はヴェンチャービジネスだった。外車も同じで幻のメーカーの小型車の写真を眺めれば、誰でも夢を持てた時代だったんだなあ、と感慨深い。
進駐軍時代と車たち―マッカーサー時代のカー・ウォッチング / 車屋 四六
進駐軍時代と車たち―マッカーサー時代のカー・ウォッチング
  • 著者:車屋 四六
  • 出版社:グリーンアロー出版社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:1995-11-00
  • ISBN-10:4766331796
  • ISBN-13:978-4766331790
内容紹介:
進駐軍とともに日本にやってきたのは、チョコレート、チューインガム、そしてピカピカの大型の乗用車だった。進駐軍時代が青春時代だった著者が、乗ったり見たりした懐かしの車をとおして時代を振り返る。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1995年12月17日

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