書評
『世界史を動かすスパイ衛星―初めて明かされたその能力と成果』(光文社)
北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発疑惑が騒がれているけれど、こうした問題が表面化するのは偵察衛星、別名スパイ衛星の存在に負うところが大きい。もちろん衛星による監視も万能ではない。屋根に覆われた内部までは覗(のぞ)くことができない。調査団が派遣されるゆえんである。
三年前の湾岸戦争においても同様で、イラクは衛星に監視されることを恐れ自国の戦闘機や戦車を地下のシェルターに隠した。そのためイラクの残存勢力の見積もりの障害となった(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆年は1994年)。
戦闘の最中、イラクを攻撃した多国籍軍の司令塔は偵察衛星からの情報を掌握したアメリカが任じた。フランスは、あそこにイラク軍の戦車部隊がいる、とアメリカに言われると、そう信じて攻撃に向かうしかなかった、と反省して偵察衛星の打ち上げ計画を練り直している。フランスの衛星画像の分解能は十メートルで、アメリカの軍事衛星の十五センチには遠く及ばないのである。
冷戦が終わり米ソの偵察衛星の独占状態が崩れると、偵察衛星ビジネスともいうべき市場が活性化し始めた。軍事情報に限らず、石油精製施設の稼働状況やタンカーの運行状況を把握するなどの商業情報も、国家の安全保障の重要な要素となるからである。にもかかわらず核兵器のように偵察衛星拡散を防止する規制の世界レヴェルでの動きが始まる気配はない。
本書は、湾岸戦争のテレビ解説で知られる軍事評論家による翻訳で、一部に訳者の書き下ろしの補充部分が加えられ「訳・著者」という変則的な表記となっている。必ずしも読みやすい本ではないが偵察衛星の歴史から現況までを、網羅的に示すためには仕方のないところか。いまや偵察衛星を所有するか否かは外交の主体性に不可欠で、H2ロケットの打ち上げ成功でその能力を持つ日本は今後なにをすべきか、という訳・著者の控えめな問題提起をどう受けとめたらよいのであろうか。
三年前の湾岸戦争においても同様で、イラクは衛星に監視されることを恐れ自国の戦闘機や戦車を地下のシェルターに隠した。そのためイラクの残存勢力の見積もりの障害となった(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆年は1994年)。
戦闘の最中、イラクを攻撃した多国籍軍の司令塔は偵察衛星からの情報を掌握したアメリカが任じた。フランスは、あそこにイラク軍の戦車部隊がいる、とアメリカに言われると、そう信じて攻撃に向かうしかなかった、と反省して偵察衛星の打ち上げ計画を練り直している。フランスの衛星画像の分解能は十メートルで、アメリカの軍事衛星の十五センチには遠く及ばないのである。
冷戦が終わり米ソの偵察衛星の独占状態が崩れると、偵察衛星ビジネスともいうべき市場が活性化し始めた。軍事情報に限らず、石油精製施設の稼働状況やタンカーの運行状況を把握するなどの商業情報も、国家の安全保障の重要な要素となるからである。にもかかわらず核兵器のように偵察衛星拡散を防止する規制の世界レヴェルでの動きが始まる気配はない。
本書は、湾岸戦争のテレビ解説で知られる軍事評論家による翻訳で、一部に訳者の書き下ろしの補充部分が加えられ「訳・著者」という変則的な表記となっている。必ずしも読みやすい本ではないが偵察衛星の歴史から現況までを、網羅的に示すためには仕方のないところか。いまや偵察衛星を所有するか否かは外交の主体性に不可欠で、H2ロケットの打ち上げ成功でその能力を持つ日本は今後なにをすべきか、という訳・著者の控えめな問題提起をどう受けとめたらよいのであろうか。