書評

『スーパーロビイスト(上) ワシントンを動かす男ロバート・グレイ』(株式会社共同通信社)

  • 2023/08/19
スーパーロビイスト ワシントンを動かす男ロバート・グレイ / スーザン・トレント
スーパーロビイスト ワシントンを動かす男ロバート・グレイ
  • 著者:スーザン・トレント
  • 翻訳:佐々木 謙一
  • 出版社:株式会社共同通信社
  • 装丁:単行本(340ページ)
  • 発売日:1994-03-01
  • ISBN-10:4764103109
  • ISBN-13:978-4764103108
内容紹介:
米政界を揺るがすスキャンダルの背後に必ず浮かび上がる一人の男、PRとロビー活動をドッキング、マスコミを思いのままに操る男、ロバート・グレイとは…。今明かされるもう一つのワシントン政治史。

米の民主主義演出する黒幕

湾岸戦争の直前、アメリカ議会の公聴会で、命からがらクウェートから逃げてきたナイラという名前の十五歳の少女が涙を流して、「クウェートに侵攻してきたイラク兵らは病院に入ると片っ端から未熟児を冷たいコンクリートの床へ放り出し、保育器を奪っていった」と訴えた。ホワイトハウスは武力行使を急いでいたが議会は慎重だった。この証言が決定的な影響を与えたのである。

ナイラの身元は家族が報復されるかもしれないということで秘密にされていた。一年後、駐米クウェート大使の娘であることがバレてしまう。しかも虚偽の証言だったことも。さらにこれらを演出したPR会社は、クウェートから巨額のカネをふんだくっていたことも。本書は、こうした演出の黒幕でロビイストとしてワシントンでは誰知らぬ者がないボブ・グレイの一代記である。

グレイは顧客のためならどんなことでもした。彼の顧客は企業だけでなく、先のクウェートのように一国丸ごとでもあった。「清涼飲料や歯磨きと同じように戦争も売り込みが可能であることを見せつけた」のである。テレビを巧みに活用することには格別たけていた。「テレビニュースの大半は、PR会社の缶詰製品なのだ」と述べて憚(はばか)らない。だから顧客の外国元首の独占インタビューなども巧みにテレビ局に提供した。それと気づかずにニュースとして流してしまうテレビ局の体質にも少なからず問題がある。他人ごとではない。日本もまた企業だけでなく、政府もグレイに高額の報酬を渡しPRを依頼してきた事実が暴露されているのだから。

七十三歳のグレイはやや落ち目になってきたらしいが、ワシントンには第二のグレイが無数に控えている。司法省の報告によると、企業や政府がロビイストに支払った報酬は日本がダントツで、二位のカナダの五倍、約七十億円。これは正式に届けられた分で、実際はもっとずっと多い。民主主義の手本といわれるアメリカの実態が苦い思いで伝えられている。佐々木謙一訳。
スーパーロビイスト ワシントンを動かす男ロバート・グレイ / スーザン・トレント
スーパーロビイスト ワシントンを動かす男ロバート・グレイ
  • 著者:スーザン・トレント
  • 翻訳:佐々木 謙一
  • 出版社:株式会社共同通信社
  • 装丁:単行本(340ページ)
  • 発売日:1994-03-01
  • ISBN-10:4764103109
  • ISBN-13:978-4764103108
内容紹介:
米政界を揺るがすスキャンダルの背後に必ず浮かび上がる一人の男、PRとロビー活動をドッキング、マスコミを思いのままに操る男、ロバート・グレイとは…。今明かされるもう一つのワシントン政治史。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1994年4月25日

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