書評

『真説 真田名刀伝』(角川春樹事務所)

  • 2018/09/24
真説 真田名刀伝 / 東郷 隆
真説 真田名刀伝
  • 著者:東郷 隆
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:大型本(268ページ)
  • 発売日:2016-02-29
  • ISBN-10:4758412774
  • ISBN-13:978-4758412773
内容紹介:
真田信繁(幸村)の最後の刀となった名刀「茶臼割り」。海野・真田一族らの歴史を見つめた稀代の日本刀。謀略に満ちた北関東の戦国時代を描く傑作歴史小説の登場!

歴史に埋もれた人間の生き様を活写する

大河ドラマ「真田丸」が好調な真田一族は、信濃国の名門たる滋野氏(しげのうじ)の子孫ということになっているが、実はこれは裏付けのある話ではない(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年)。歴史学的に確かなのは、小県(ちいさがた)郡真田郷(現在は上田市真田町)に出自の定かでない真田幸綱という小規模な領主がいて、彼こそが上田城主・真田昌幸(信之、幸村/信繁の父)の父親である幸隆と同一人物、ということだ。

いま北陸新幹線の上田駅から車に乗って北上すると真田町。さらに北東に進んで鳥居峠を越えたところが群馬県吾妻郡。この地方に小勢力を有していたのが羽根尾城を構える海野(うんの)(羽尾)幸全であるが、本書は海野一族の有為転変を、真田幸隆・昌幸との関わりの中で、また武田信玄や上杉憲政ら戦国大名の角逐とともに描いていく。

主人公・海野能登守輝幸は幸全の弟で、「茶臼割り」の名がある大太刀を自在にあやつる剣の名手であった。彼は強大な大名権力の動向にふりまわされながらも、小勢力・海野氏に連なる一員として、懸命に日々の生活を守り営んでいた。

能登守の名乗りは大層であるが、輝幸はせいぜい数十人の兵を率いる小隊長といった格の侍であった。信玄や信長ら英傑を書く小説家はあまたいるが、こうしたクラスの武士を活写する腕の冴(さ)えは、東郷隆が随一といって過言ではあるまい。戦国時代を知り尽くすからこそ、それは可能になる。歴史書の中に埋もれた人物の生き様をみごとに復元することにより、物語は迫真のものとなる。

当然のことながら、歴史は英傑だけが紡ぎ出すものではない。いまを生きる私たちに通じる、等身大の戦国びと。彼らが精いっぱい生きていく「ほんもの」の戦国小説をお探しの方に、ぜひお勧めしたい一冊である。

真説 真田名刀伝 / 東郷 隆
真説 真田名刀伝
  • 著者:東郷 隆
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:大型本(268ページ)
  • 発売日:2016-02-29
  • ISBN-10:4758412774
  • ISBN-13:978-4758412773
内容紹介:
真田信繁(幸村)の最後の刀となった名刀「茶臼割り」。海野・真田一族らの歴史を見つめた稀代の日本刀。謀略に満ちた北関東の戦国時代を描く傑作歴史小説の登場!

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2016年4月17日増大号

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