書評

『ならず者たちのギャラリー 誰が「名画」をつくりだしたのか?』(フィルムアート社)

  • 2018/11/14
ならず者たちのギャラリー 誰が「名画」をつくりだしたのか? / フィリップ・フック
ならず者たちのギャラリー 誰が「名画」をつくりだしたのか?
  • 著者:フィリップ・フック
  • 翻訳:中山 ゆかり
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2018-08-25
  • ISBN-10:4845917157
  • ISBN-13:978-4845917150
内容紹介:
サザビーズの競売人(オークショニア)が案内する、美術史と美術品の価値に影響を与えた魅力的な画商列伝。数量でははかることが難しく、美や質や稀少性といった概念によって左右される美術… もっと読む
サザビーズの競売人(オークショニア)が案内する、美術史と美術品の価値に影響を与えた魅力的な画商列伝。

数量でははかることが難しく、美や質や稀少性といった概念によって左右される美術品の価値。

画商が売りこんでいるもの、それは漠然とした、はかり知れない、だが無限の値打ちをもったもの。
すなわち芸術家の天賦の才能である。

美術の世界でこれまで顧みられることのなかった画商という存在。
美術品を売ることに対して自身の想像力と創意工夫と、
そして説得力の限りを捧げた一群の魅力的な男たち(そして女たち)が登場!!
美術史に新たな角度から光を投げかける画期的な作品!!

オークション会社サザビーズのディレクター、フィリップ・フックが
今度は「画商」について語る!!

【本書に登場する画商の例】
レンブラントを雇い、才能を開花させた男 … ファン・アイレンブルフ
セザンヌの市場価値をつくった男 … アンブロワーズ・ヴォラール
ピカソらキュビストを発見し、応援した男 … ダニエル=アンリ・カーンワイラー
モディリアーニの水先案内人 … ポール・ギヨーム

征服者なのか寄生虫なのか、あるいはその中間のど

「曲芸」に挑戦した画商たちの列伝

画商という職業はいつごろ、またどのようにして誕生したのだろうか?

著者によれば、起源は古代ローマにあり、絵画の値段は最終的には「重さ」で決められたという。

一方、近代的な絵画取引は十五世紀アントウェルペンの教会敷地で画家と商人が開いた市場を嚆矢(こうし)とする。ついで取引の中心はオランダのアムステルダムに移る。アイレンブルフという画家が自分で絵を売るよりも、工房で働くレンブラントの絵を売るほうが儲(もう)かると気づいて画商に転じたのだ。やがて戦乱にあったイタリアの地位が下落すると、英仏の外交官や聖職者が仲介料目当てで王侯貴族の代理人をつとめ、ルネッサンス絵画をパリやロンドンに運ぶ。フランス王妃アンヌ・ドートリッシュの恋人バッキンガム公もその一人だった。

十八世紀に入ると、イギリスに新しいタイプの画商が出現する。一つは無署名の絵でも本物と認定できる鑑識眼を備えた研究者兼務のポンドのような画商。もう一つは「荒れた海ほど、最も多く魚を捕まえられる」として革命や戦争に乗じて投機を図るウィリアム・ブキャナンのような「ならず者」の画商。ブキャナンはフランス革命とナポレオン戦争で美術品が投げ売りされると顧客の欲しがりそうな作品リストを作成し、買い取りエージェントを送り出す。クリスティーズやサザビーズなどの競売会社が成立したこともこうした「ならず者」型の画商が活躍する下地となる。

十九世紀に至って、ようやく現代作家を扱う画商が出現する。

版画商のガンバートはイギリスの新興ブルジョアが同時代の作品を好み、卑近な画題に安心感を抱くことに気づき、「センセーショナル・ピクチャー」という展覧方式を考え出す。すなわち、馬市、競馬場、鉄道駅といった空間に群衆たちがひしめく巨大な絵画を現代画家に描かせ、入場料を取って公開した後、複製版画を販売し、最後に作品そのものを売却するのである。「それは販売のために委託された新作という果実一粒を、三回美味(おい)しく味わう機会を画商にもたらすものだった」

この経験から現代作家の絵画も売れると気づいたガンバートはミレイ、ロセッティ、ハントなどラファエル前派の画家たちに目をつけ、大衆が好むような画題を選ばせる。つまり、画商主導の絵画が生まれたのである。

一方、サロン(官展)が支配していたフランスでは画商は成立しにくかったが、そのことが逆に新しいタイプの画商の誕生を促す。たとえば、サロンから締め出された印象派の画家たちに寄り添いながらなんとか彼らの絵画を売れるように努めた画商デュラン=リュエル。あるいはデュラン=リュエルがガラクタ扱いしたセザンヌ、ゴッホなどの後期印象派の先見性を見込んで大量に作品を買い取りながら、これを客に売りたがらなかった偏屈画商ヴォラール。さらにはヴォラールが理解しなかったキュビスムの革命性を見抜いてピカソやブラックと専属契約を結んだ理論派の画商カーンワイラー。彼らは商売上の成功を精神的な勝利に変えたと見ることも可能だが、著者は「そのような高潔さは、もちろんそれ自体で、きわめて魅力的な商売上の戦略ともなりうるのだ」と冷徹に分析している。

金儲けと画家支援という両立不可能な曲芸に、未来の報酬(名声と金銭)という幻想を持つことで挑戦しつづけた画商たちの興味尽きない列伝である。
ならず者たちのギャラリー 誰が「名画」をつくりだしたのか? / フィリップ・フック
ならず者たちのギャラリー 誰が「名画」をつくりだしたのか?
  • 著者:フィリップ・フック
  • 翻訳:中山 ゆかり
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2018-08-25
  • ISBN-10:4845917157
  • ISBN-13:978-4845917150
内容紹介:
サザビーズの競売人(オークショニア)が案内する、美術史と美術品の価値に影響を与えた魅力的な画商列伝。数量でははかることが難しく、美や質や稀少性といった概念によって左右される美術… もっと読む
サザビーズの競売人(オークショニア)が案内する、美術史と美術品の価値に影響を与えた魅力的な画商列伝。

数量でははかることが難しく、美や質や稀少性といった概念によって左右される美術品の価値。

画商が売りこんでいるもの、それは漠然とした、はかり知れない、だが無限の値打ちをもったもの。
すなわち芸術家の天賦の才能である。

美術の世界でこれまで顧みられることのなかった画商という存在。
美術品を売ることに対して自身の想像力と創意工夫と、
そして説得力の限りを捧げた一群の魅力的な男たち(そして女たち)が登場!!
美術史に新たな角度から光を投げかける画期的な作品!!

オークション会社サザビーズのディレクター、フィリップ・フックが
今度は「画商」について語る!!

【本書に登場する画商の例】
レンブラントを雇い、才能を開花させた男 … ファン・アイレンブルフ
セザンヌの市場価値をつくった男 … アンブロワーズ・ヴォラール
ピカソらキュビストを発見し、応援した男 … ダニエル=アンリ・カーンワイラー
モディリアーニの水先案内人 … ポール・ギヨーム

征服者なのか寄生虫なのか、あるいはその中間のど

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年11月4日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
鹿島 茂の書評/解説/選評
ページトップへ