書評

『口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業』(晶文社)

  • 2019/01/10
口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業 / 石橋毅史
口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業
  • 著者:石橋毅史
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(211ページ)
  • 発売日:2015-04-15
  • ISBN:4794968779
内容紹介:
85歳の今も神保町の顔として、書店の現場から〈本・人・街〉を見つめつづける柴田信さんに3年にわたり密着した渾身書き下ろし。

毎日を「普通」に懸命に

柴田信は現在85歳にして現役の書店員(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2015年6月。柴田氏は2016年10月12日、死去されました)。神保町にある岩波ブックセンター代表として、週に4日、自宅から1時間以上かけて通勤する。教師からトラック運転手を経て書店員という変わり種で、本に関わって半世紀を経た。

本の街・神保町をそぞろ歩けば、あちこちから柴田に声がかかる。そんな「顔」に2年も密着し、話を聞き出してできたのがこの本だ。

著者は、出版業界紙で長く記者をしていた経験を生かし、柴田の書店人生と、現状について細かく話を聞き出す。「本には不思議な魅力がある、関わっている人をあきらめ悪くさせる」。これが著者と柴田の共通認識だ。

柴田が本書でくり返しこだわるのは「普通の本屋」であること。昨今の新刊書店では雑貨を売ったり、喫茶部を併設することで売り上げを補填(ほてん)する。あるいは、カリスマ書店員と祀(まつ)り上げられ、雑誌やテレビで本を推薦する。そういう風潮が柴田はイヤなのだ。「いつもどおり、いままでどおり、毎日を一生懸命にやる」ことが、柴田の言う「普通」だ。

芳林堂書店時代、店長だった彼がみんなに言った言葉が、本書のタイトルになっている。つまり「口笛を吹きながら本を売ろう」だ。そのために、本を売るための強い仕組みを裏側で作るというわけだ。そこが今は難しいと著者は食い下がるし、地方の駅前書店の経営者が聞けば、冗談じゃないよと怒るかもしれない。柴田の書店論は必ずしも正解ではない。正解を目指してはいないと言うべきか。

しかし、教師として子供とつきあった日々、トラック運転手で汗まみれになった体験が、すべて生かされて書店員としての柴田がある。だから言葉が生きている。

「自分で好きなことで誰かにしてやれることが、人柄といわれるものをつくる」などの名言が随所に登場して、読む気持ちにはずみをつける。「平凡であることに自信をもっている」柴田の「非凡」を引き出したのは、生徒役・石橋毅史の力量である。読み終わった後、また最初から読み返したくなる本だ。
口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業 / 石橋毅史
口笛を吹きながら本を売る: 柴田信、最終授業
  • 著者:石橋毅史
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(211ページ)
  • 発売日:2015-04-15
  • ISBN:4794968779
内容紹介:
85歳の今も神保町の顔として、書店の現場から〈本・人・街〉を見つめつづける柴田信さんに3年にわたり密着した渾身書き下ろし。

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 2015年6月21日

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