書評
『新・地底旅行』(朝日新聞社)
時は明治末。「地球空洞説」を信奉する科学者・稲峰博士とその令嬢・都美子が富士登山中、行方不明に。挿絵画家の野々宮はお調子者の友人・丙三郎の口車にのせられて、物理学者・水島や稲峰家の女中をしていたサトらと共に、捜索のため地底探検へと旅立つ――。
SFやミステリーの枠組みを積極的に援用し、読んで楽しい文学を発表し続けている奥泉光が、漱石作品を横目ににらみつつヴェルヌの傑作の続編化に挑戦したのが、このSF冒険小説だ。ヴェルヌが提示した地下世界を解釈し直したという内容にはなっているものの、元の作品を知らなくても愉しめること請け合い。『吾輩は猫である』の文体を取り込んだユーモラスな語り口にのせられて、あれよあれよという間に富士の真下に広がる地底世界へと連れ去られてしまうのだ。信玄の隠し財産の噂。地底で出会う光る猫や巨龍、有尾人といった奇妙な生き物たち.宇宙の摂理を司るという楽器の製作に邁進する電気生命体の謎。一行が遭遇する不思議な出来事や危機的状況に、胸ときめかせながらページを繰る手がとまらない。
しかも笑える。大言壮語癖があって、自分勝手で、臆病で、役立たずのくせに偉そうに振る舞うトリックスター、丙三郎の言動の可笑しさといったら! この人物造型にも漱石作品への目配せが感じられ、“よく読む者がよく書く”という創作の真理が実感できるのだ。作中言及される「宇宙に遍在する楽器製作者」は奥泉の旧著『鳥類学者のファンタジア』にも出てくる存在だし、先述した「電気生命体」はじめ幾つかの謎は解き明かされぬまま終わっているので、今後さらなる続編の発表も期待できそうだ。野々宮&丙三郎のドタバタコンビに再会できる日が今から楽しみでならない。
【この書評が収録されている書籍】
SFやミステリーの枠組みを積極的に援用し、読んで楽しい文学を発表し続けている奥泉光が、漱石作品を横目ににらみつつヴェルヌの傑作の続編化に挑戦したのが、このSF冒険小説だ。ヴェルヌが提示した地下世界を解釈し直したという内容にはなっているものの、元の作品を知らなくても愉しめること請け合い。『吾輩は猫である』の文体を取り込んだユーモラスな語り口にのせられて、あれよあれよという間に富士の真下に広がる地底世界へと連れ去られてしまうのだ。信玄の隠し財産の噂。地底で出会う光る猫や巨龍、有尾人といった奇妙な生き物たち.宇宙の摂理を司るという楽器の製作に邁進する電気生命体の謎。一行が遭遇する不思議な出来事や危機的状況に、胸ときめかせながらページを繰る手がとまらない。
しかも笑える。大言壮語癖があって、自分勝手で、臆病で、役立たずのくせに偉そうに振る舞うトリックスター、丙三郎の言動の可笑しさといったら! この人物造型にも漱石作品への目配せが感じられ、“よく読む者がよく書く”という創作の真理が実感できるのだ。作中言及される「宇宙に遍在する楽器製作者」は奥泉の旧著『鳥類学者のファンタジア』にも出てくる存在だし、先述した「電気生命体」はじめ幾つかの謎は解き明かされぬまま終わっているので、今後さらなる続編の発表も期待できそうだ。野々宮&丙三郎のドタバタコンビに再会できる日が今から楽しみでならない。
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