書評
『フランス文学万華鏡―ECRITS DIVERS』(白水社)
昨年惜しまれつつ世を去った仏文学者の随想集。どれも珠玉の名文だが、なかでも「遠い国の叔父貴たち」という随想が感動的。そこではフランスの作家を「若いころ自分も遊んだのだから今さら若い者に謹厳な顔もできないじゃないか、と悟っている好ましい叔父貴のような存在」と感じて仏文科に進んだ著者の、心優しい研究態度が語られている。
文学と語学の教職に携わる読者に、ぜひとも一読を勧めたい一冊である。
【この書評が収録されている書籍】
彼らのことばを理解し得るごとに、わたしは確かな幸福の前味を味わう。わたしは人生に、芸術に、夢想に、仕事に新たな楽しみを見出すように思う。『前味』だけでいいのか? 『見出すように思う』だけでほんとうに『見出さ』ないでいいのか? これが『パルムの僧院』と『ボヴァリー夫人』の共通のテーマで、わが愛する叔父貴たちは結局『それでいいのだ』といっている。わたしはこの甘さをかつては弱さと思って気に病んだこともあったが、今ではそうは思わない。年の功というものであろう。
文学と語学の教職に携わる読者に、ぜひとも一読を勧めたい一冊である。
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