書評

『彼らは生きていた —いま甦る室町~江戸絵画集—』(鳥影社)

  • 2019/05/09
彼らは生きていた —いま甦る室町~江戸絵画集— / 鷹見 遊山
彼らは生きていた —いま甦る室町~江戸絵画集—
  • 著者:鷹見 遊山
  • 出版社:鳥影社
  • 装丁:大型本(240ページ)
  • 発売日:2019-01-23
  • ISBN:4862657222
内容紹介:
近年、誰の目にもふれることのなかった室町~江戸時代から今に生きた絵画群をここに収録!

絵を見る我々読者は試されているのか

日本のみならず海外でも評価が高まっている、室町時代から江戸時代にかけての絵画を集めた書籍。広島の原爆で失われたとされていた長沢芦雪(ろせつ)の「蝦蟇(がま)仙人・鉄拐(てっかい)先生図」が実は生き残っていて、このほか紹介される機会が少ないものを多く含むという。インパクトのある表紙は、その鉄拐先生である。

おもしろいなあ、と絵を見ていたぼくは79番でページをめくる手を止めた。芦雪の「静御前図」とタイトルにある。懐に嬰児(えいじ)を抱く美しい女性。違う。これ、源義経の愛人の静御前ではなく、義経の父・義朝の愛人、常盤御前だ。二人の子どもは今若と乙若。嬰児が牛若でのちの義経だ。そういえばその隣の「巴(ともえ)御前」も、ただの田舎女に見えて、木曽義仲の愛人の女武者、巴御前らしくない。何の根拠をもって、彼女を巴とするのか?

この疑問を持って自分なりに調べを始めたときに、本書の特徴にやっと気がついた。本書は絵画の所蔵者を記していない。説明もほとんど付していない。著者の鷹見遊山さんのプロフィルも書いていない。ネットで調べたが、鷹見さんがどういう方か、まるで見当がつかなかった。「物見遊山」をもじっただけ?

もう一度「はじめに」を読み返す。なになに、「絵画の善し悪しは、見る者の感性におうものであると私は考える」。うん? 絵を見るのに余計な能書きはいらない。真摯(しんし)に対峙(たいじ)すれば、絵の良さは分かるだろ?と鷹見さん、それに出版社の鳥影社は言いたいのだろうか。

だれのお墨付きもない。信頼すべきは自身の目のみ。うーん、情報の氾濫に慣れている身としては、これは怖い。突然、匕首(あいくち)を喉元に突きつけられた気分である。でも、こんなピリピリした状況下での絵画鑑賞も、たまにはいいかもしれない。
彼らは生きていた —いま甦る室町~江戸絵画集— / 鷹見 遊山
彼らは生きていた —いま甦る室町~江戸絵画集—
  • 著者:鷹見 遊山
  • 出版社:鳥影社
  • 装丁:大型本(240ページ)
  • 発売日:2019-01-23
  • ISBN:4862657222
内容紹介:
近年、誰の目にもふれることのなかった室町~江戸時代から今に生きた絵画群をここに収録!

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年4月21日増大号

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