一冊あればこれは便利! 鑑賞のポイントや、著者が選ぶ一○人のアーティスト、「死ぬまでに見ておきたい日本美術一○○選」まで載っていて、至れり尽くせりである。
本書の特長は、山口桂氏が海外のオークションで美術品を売買するプロであること。日本美術を外から見ている。世界に通用する価値ありと信じている。狭い日本で骨董をいじくる日本美術史とわけが違う。
印象派やピカソに詳しくても、日本美術を知らないあなたは恥を知りなさい。どんな作品も、出来たときはピカピカの現代美術。作家の創作をその時点の新鮮な驚きで受け止めよう。縄文のビーナスも運慶の造形も広重の「大はしあたけの夕立」も、ありえぬ真実をあらしめる荘厳なわざだ。こういう感動には日本も世界もないのだと気づかされる。
作家はなぜ超絶技巧をこらし、ここまで精魂こめて作品を作るのか。その作品が時空を超え、すべての人びとに届くと信じるから。本書は日本美術の本だが、「立派な作品ですね、日本の誇りですね」の安直なナショナリズムのはるか上を行く。美術を鏡に、永遠のなかに生きようとする人間の切なさを見つめる。