秋野不矩 インド
- 著者:秋野 不矩
- 出版社:京都書院
- 装丁:大型本(0ページ)
- ISBN-10:476361097X
- ISBN-13:978-4763610973
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いきものがもつよごれを、心の目のフィルターで漉(こ)しに漉し、ようやく得られたひと雫(しずく)。
野良犬が荒野を彷徨(さまよ)って歩く図であったが、これは見事に落選し、私は失意の底に沈んだ。……あばらも透けて見える野良犬は美の対象には認められなかったようだ。翌年は白萩の陰に湯浴みする少女で入選、その後落ちることはなかった。しかし『野良犬』が入選したならば、もっと自分の世界を追求してゆけたであろう。やはり落選せぬような絵を描くこととなり、残念に思ったことである。
放光堂という古い老舗(しにせ)に出掛けると、実にさまざまな岩絵の具が棚にずらりと並んでいる。私は見ているだけでも楽しかった。粒子の粗い岩絵の具がめずらしく、それを使ってみたいと思った……粗い黄系統の岩絵の具を思い切り使って……
インドの大地は赤土であるから黄土色だけは濃いのも淡いのもいくらでもある。私は学生に校庭をさして、あそこに黄土の絵の具がいっぱいあるから、あれで描こうと言って……。遠足等にゆくと岩山の道で雲母を見つけたり、シャンチニケータンの河原では、中が空洞で、ポンと割ると辰砂(しんしゃ)のように赤い小石を拾ったことがある。アジャンタのあたりの岩をよく見ると、その中に小さな緑青(ろくしょう)が点々と……