書評
『ワニくんのふしぎなよる』(BL出版)
ワニくんのいいところ
子どもの本の主人公になる動物で、一番多いのはクマではないだろうか。あくまで読者としての勘にすぎないが、「さんびきのくま」といった昔話から「クマのプーさん」にいたるまで。クマは古今東西、普遍的な人気者という気がする。息子の本棚をのぞいてみても、すぐに何冊ものクマさんの本を見つけることができる。誕生のお祝いにいただいたぬいぐるみ類でも、クマが圧倒的に多かった。犬や猫に比べて、日常的には接する機会の少ない動物だ。逆に、だからこそ、物語や夢をたくしやすいのかもしれない。
さて、今回の主役は、実はクマではなくワニである。読んでやった本の量は、クマのほうが多いと思うのだが、息子はなぜかワニ好きだ。ディズニーのアニメでも、一番好きなのが「フック船長をいつも狙っているワニ」である。
『はらぺこわにときのいいかえる』(ディディエ・レヴィ文、コラリ・ガリブール絵、いしづちひろ訳、BL出版)や、絵本雑誌の付録についていた「めをまわしたアリゲーくん」など、お気に入りのラインナップを見ていて「どうも、この子はワニ好きなのでは?」と思いはじめたころ、それが決定的になった。
『ワニくんのふしぎなよる』に、息子は大喜び。のんびりやで気のいいワニくんとヘンテコな宇宙人との出会いが、ユーモラスに描かれている。おかしくって、ほほえましい話のなかに、心あたたまる要素もあり、そのストーリーが、やわらかな色彩の絵とぴったりだ。
「〇□★」などと書かれている宇宙人の「宇宙言語」が、巻末の解読表で理解できるというオマケも、楽しい。最初は「ホニャラララ」「ピコピコピー」などと適当に読んでいたのだが、実はこれを訳せるとわかって、大人の私のほうが夢中になってしまった。息子も興味津々(しんしん)で「宇宙語、読んで!」と言って本を持ってくることもある。
この一冊がきっかけで、『ワニくんのレインコート』(BL出版)『ワニくんのむかしばなし』(BL出版)など、ワニくんシリーズを次々と手にするようになった。
このワニくんは、まことにおっとりしているので、読んでやるうちに、こちらはカバくんみたいな声になってしまうのだが、でも、これがカバくんじゃあ、ダメなんだろうなあとも思う。もちろんクマくんでも、しっくりこない。
長い顔、大きな足、ごつごつした体……ワニくんの、ややグロテスクなところが、いいのだろう。誰からも愛されるクマくんの風貌とは違う。見た目ちょっと違和感あるけれど、そのワニくんが優しいところや、臆病なところや、おもしろいところを見せてくれるとき、子どもは限りない親近感を抱くようだ。思えばこの要素は、はらぺこわにやアリゲーくんにも共通するところ。ひとひねりした魅力が、ワニの持ち味だ。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年5月30日
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