バクテロリストVS.ビオフェル民族
息子は、薬を飲むのが大嫌いだ。好きな味のジュースに混ぜたりしても、すぐに気づいて吐(は)きだしてしまう。「おくすりのまないと、なおらないよ」
「いやだ、まずいんだもん」
こんな会話を、どれほどしてきたことだろう。
ところが先日、劇的な変化があった。おなかにくる風邪をひいて、小児科で「ビオフェルミン」の入った粉薬を処方してもらったところ、袋(ふくろ)を見ていた息子の目が輝いた。「あっ、ビオフェルみんぞく!?」
「そうだよ、ビオフェルみんぞくが、このおくすりには、はいっているの。おなかのなかで、バクテロリストがあばれているから、だいこうずいをおこして、そとにだしているのね。それが、げりっぴ。でも、それだけじゃ、バクテロリストをやっつけられないから、ビオフェルみんぞくに、おうえんしてもらってくださいって、おいしゃさんがくれたんだよ。どう?おうえんしてもらう?」
「うん!」
自分がビオフェル民族になったような勇ましい顔つきで、息子は薬を飲みほした。
『よーするに医学えほん からだアイらんど おなか編』さまさまである。息子の最近のお気に入りなのだが、これは、大人が読んでも楽しい一冊だ。食べ物が口に入ってから出ていくまでの、おなかの中の様子が、さまざまな擬人化やたとえによって、わかりやすく描かれている。
くちびるゲートや舌税関のチェックを経て、食道川を通り、胃湖へと入ってゆく食べ物のいかだと木箱。胃湖ではペプシンジャーが、せっせといかだと木箱を壊している(消化)。いかだが多すぎるとき(食べ過ぎ)には、オオタイイさんという外国からの応援がきたりする(薬を飲む)。悪者のバクテロリストがおおあばれすると、大洪水(だいこうずい)を起こして外に出す(下痢)。応援は、数時間のパート契約で戦ってくれるビオフェル民族……。
他にも、アルカリ娘とかキャベ人とかガスタテンコとか、言葉あそびのセンスの光る擬人化が、これでもかと出てくる。かなりむずかしい内容もあるのだけれど、手加減しないで表現しているところ、かえって子どもの興味をそそるようだ。
擬人化があまりにうまくいっているので、逆にこのまま覚えてしまうのでは? というのが唯一の心配だ。ピロリン娘はピロリ菌、バクテロリストはバクテリアなのだと、いつか教えてやらねばならないだろう。
ビオフェルミンのおかげで、おなかの具合がもとに戻った息子。
「うんちプレスマン、おおいそがしだね」と、にっこり笑った。
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