書評

『人口の世界史』(東洋経済新報社)

  • 2017/07/08
人口の世界史 / マッシモ・リヴィ‐バッチ
人口の世界史
  • 著者:マッシモ・リヴィ‐バッチ
  • 翻訳:速水 融
  • 監修:斎藤 修
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(301ページ)
  • 発売日:2014-02-28
  • ISBN-10:4492371168
  • ISBN-13:978-4492371169
内容紹介:
欧米でも版を重ねている標準テキスト。人口減少の生物学的基礎から始まって、人口転換、発展途上国の人口問題など幅広い問題を展望。

繁栄、安定、安全に迫る危機

人口の増減が経済・社会に与える影響を述べた書は数多(あまた)あるが、「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった」と書き出す本書は、人口増減の理由を根源的に問い、人口現象の「内的メカニズム」に迫る。

出生率と死亡率の劇的変化は社会変容の反映である。ホモ・サピエンス(現生人類)の誕生以来、「人口の世界史」の大転換期が2度あった。

最初は1万年前。新石器時代への移行期の「生産能力の劇的な拡大」による人口増だ。これは「バイオマス(ある空間に存在する生物の量)の制約」からの解放だった。狩猟採集生活から農耕生活へ移行し、定住という安定が出生率を上昇させ人口が増加した(死亡率も上昇)。

第2は18世紀後半から欧州で起きた「人口転換」だ。産業革命により「土地供給と限られたエネルギー量(動植物・水・風といった)」から解き放されたことで、「不経済(多産多死)から節約へ」、「無秩序(子が親より先に死ぬ)から秩序へ」と移行し、経済は繁栄を極めた。

ホッブズが「闘争状態」を終わらせるために1651年に著した『リヴァイアサン』の社会的影響は18世紀後半になってようやく表れ、ホイジンガが『中世の秋』で述べたように「新しい時代がはじまり、生への不安は、勇気と希望とに席をゆず」ったのだ。

だが、その後先進国では出生力の「後戻りできない低下」が始まり、貧困国は人口増加が続く。本書は転換と収斂(しゅうれん)の過程が終了する将来の人口の潜在的増加率を「±1%」とみているが、既に出生した若年層の多さに負うところが大きい。「人類史はいま新たな歴史局面に入りつつあり、(略)現在の人口増加は危険な道路を疾走する車のようなもの」と著者は警告する。

英歴史家ホブズボームは20世紀を「極端な時代」とみた。21世紀には、さらに予想のつかない未来が待つ。
人口の世界史 / マッシモ・リヴィ‐バッチ
人口の世界史
  • 著者:マッシモ・リヴィ‐バッチ
  • 翻訳:速水 融
  • 監修:斎藤 修
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(301ページ)
  • 発売日:2014-02-28
  • ISBN-10:4492371168
  • ISBN-13:978-4492371169
内容紹介:
欧米でも版を重ねている標準テキスト。人口減少の生物学的基礎から始まって、人口転換、発展途上国の人口問題など幅広い問題を展望。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年05月04日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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