書評

『ないた あかおに』(偕成社)

  • 2022/11/19
ないた あかおに / 浜田 廣介
ないた あかおに
  • 著者:浜田 廣介
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:1965-12-10
  • ISBN-10:4033020209
  • ISBN-13:978-4033020204
内容紹介:
村人となかよくしたい赤おにと、そのねがいをかなえてやろうと、自分が悪者になる青おに。おに同士の友情を感動的に描きます。

とうめいにんげんを待ちながら

生きるとは手をのばすこと幼子(おさなご)の指がプーさんの鼻をつかめり

歌集『プーさんの鼻』が若山牧水賞をいただいたので、授賞式のため宮崎に出かけてきた。こういうときは、両親に子どもを預けていく。帰ってきて、ピンポンと実家のドアチャイムを鳴らそうとすると、玄関先に何やら立て札が立っていた。

「とうめいにんげんさま どうぞおはいりください」

よく見ると、お祝いにいただいた盛り花に付いていた札を裏返して、その文字が書かれているのだった。

チャイムを鳴らすと「おかえりなさ~い」と走ってくる元気な命のかたまり。

「すごいものがたってるね!」と言うと、鼻の穴(あな)をふくらませて、得意そうにしている。

「びっくりした?」

「うん、びっくりした」

「あのね、とうめいにんげんとね、おともだちになりたいからね、たてふだをたてたの」

聞けば、文字はおじいちゃんが書いてくれたものだが、「文面はこの子の言うとおりに書いた」とのこと。いったいどうやって、こんなアイデアが出てきたのだろうか。そもそも立て札なんて言葉、どこで覚えたのだろう。

「ないたあかおにに、でてきたでしょ」と言われて、ようやく気がついた。

そうそう、『ないたあかおに』だ。

人間たちと仲良くしたいと考えた赤鬼が、家の前に立て札を出す。

こころのやさしいおにのうちです。どなたでもおいでください。おいしいおかしもございます。おちゃも、わかしてございます。あかおに

ところが、人間に信じてもらえず、やけをおこす赤鬼。そんな赤鬼を見て、友人の青鬼は、村人の前でわざと悪役を演じて、赤鬼と人間の仲を取り持つ。そして……。

ラストの青鬼の言葉には、赤鬼でなくとも泣いてしまう。私は子どもの時からこの話が大好きで、何度となく母に読んでもらった。

だから息子にも、はりきって読んでやったのだが、反応はいまひとつだった。こちらが気合を入れすぎたせいかなと思って、しばらく遠ざかっていた絵本である。

それが、突然になぜ? 理由は、前回紹介した『ゆうれいホテル』のようだ。この本に登場する透明人間が好きでたまらなくて、どうしても友達になりたい! そういう気持ちを抱いたとき、あの人間と友達になりたかった赤鬼を思い出し、初めて共感したらしい。

興味なさそうにみえた本でも、意外なところを覚えているものだ。盛り花の札を見て、赤鬼の立て札を連想するとは。

「とうめいにんげん、きてくれるかなあ」

「うん、でもとうめいだからね、きてくれてもみえないんじゃない」

そんな私のあいづちなど、耳に入らないらしく、「エレベーターの乗りかた、わかるかな」「ピンポンって、おせるかな」と、どきどきしている息子である。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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ないた あかおに / 浜田 廣介
ないた あかおに
  • 著者:浜田 廣介
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:1965-12-10
  • ISBN-10:4033020209
  • ISBN-13:978-4033020204
内容紹介:
村人となかよくしたい赤おにと、そのねがいをかなえてやろうと、自分が悪者になる青おに。おに同士の友情を感動的に描きます。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2007年2月21日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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