書評
『東国から読み解く古墳時代』(吉川弘文館)
見えてきた社会構造
古墳時代は、壮大な高塚古墳と埴輪(はにわ)を連想するが、社会構造の実態は明瞭ではなかった。しかし近頃、東国で火山灰に埋没した豪族館跡などが発掘され注目されている。古墳は見える遺跡として多くの人びとに関心があり、古墳ブームの感を呈している。そんな最中、東国の上毛野(かみつけの・現在の群馬県)の地で有力な古墳の主と同じ甲冑(かっちゅう)を着装した六世紀初め頃の人骨が榛名山の火山灰に埋もれた姿で発掘された。いずれ古墳に葬られるはずであった当人は自らの居館域内で噴火を続ける山に対峙(たいじ)し、安泰の祈りを捧(ささ)げていたのであろう。
五世紀後半から六世紀前半、上毛野は馬の生産地であった。『日本書紀』に見える朝鮮半島への外征伝承を裏付けるかのように渡来人の文物が出土している。また、方形に堀をめぐらした豪族居館跡の調査の結果、なかに水の神に対する祭祀(さいし)の施設が確認された。水利の管理は、館の主人にとって農業生産や地域開発の面でも不可欠であった。
従来、古墳時代の社会構造の実相を具体的に示す資料はほとんど認められなかったが、上毛野の火山災害に伴う埋没遺跡の発掘はそれを可能にしたのである。本書は、東国の新資料を駆使し、前方後円墳を通しての畿内との関係、埴輪形像群が示す葬者の生前の役割なども解き明かした刺激的な一冊となっている。
[書き手] 坂誥 秀一(考古学者)
ALL REVIEWSをフォローする