書評
『続・沖縄戦を知る事典: 戦場になった町や村』(吉川弘文館)
地域別の体験 捉え返す
沖縄戦の記憶の継承は本当にできているのだろうか。読者の中には、修学旅行や平和学習で沖縄島中南部の沖縄戦を学んだことがある方も多いだろう。他方、中南部の激戦と比較される沖縄島北部や宮古・八重山、サイパンで戦争を生き抜いた人々の声、亡くなった人々の存在が広く知られているとは言い難い。つまり、沖縄戦の記憶の継承が十分になされていない事例も存在するのである。
本書は、沖縄戦を地域別の特徴に合わせて描いている。24の市町村に加えて、沖縄戦を考える上で重要な字(あざ)・場所の23ヵ所が収録されているという点も重要である。そこから分かるのは当時の住民らが戦時にいつ、どこで、どのような体験をしたかによって個々の戦争・戦後体験は大きく異なるという事実である。だからこそ、地域・字といったミクロな視点で沖縄戦を捉え返すことが必要である。
加えて本書は、初学者にとって手に取りやすい1冊でもある。沖縄戦の県史・市町村史は分厚く、いざ購入しようとすると手に入りにくい、膨大な証言を読み解くための時間が確保できないといった問題を抱えていた。本書は各市町村の沖縄戦の特徴を写真や地図を用いながら端的にまとめ、証言をいくつか紹介するなど、工夫を施している。そのため、本書を端緒に沖縄戦や戦後の学習を深めることもできる。
ただし、一人一人の体験を深く理解するためには、複数の地域・字に学びを広げる必要がある。なぜなら基地建設による土地接収や労働、食糧の確保などの要因で、移動を余儀なくされたケースが多いからである。そうした場合においても、本書は効果的な役割を果たすであろう。本書は体験者の証言を読み直すという視点に立脚しているが、体験を聞き、記録してきた人々の体験からも学び直す必要がある。というのも、体験者の声を聞き書きしてきた聞き手がいたからこそ、私たちは証言を読むことができるからである。
語り手と聞き手の共同作業でかき集められた体験者らの声を決して忘れない、という力強さを、本書は訴えている。
[書き手] 石川 勇人(いしかわ ゆうと)大阪大学大学院博士後期課程/沖縄国際大学 南島文化研究所 特別研究員/京都芸術大学 非常勤講師
ALL REVIEWSをフォローする

































