書評
『王朝貴族と外交: 国際社会のなかの平安日本』(吉川弘文館)
真剣で慎重 従来のイメージ一新
本書のタイトルを見て、「王朝貴族も外交をしていたんだ」と意外に思われた方がいるかもしれない。平安時代の貴族と言えば、私利私欲にふけり、遊興に明け暮れ、恋愛にうつつを抜かすばかりで、政治や外交などはなおざりにしていたと考えている方も少なくないものと思う。遣唐使の廃止や、その後の、国交を持たぬ閉鎖的かつ消極的な外交政策も、そうした文脈で理解されているものと思う。しかし、本書は、平安王朝の貴族たちも、与えられた歴史的な環境・条件のもとで、真剣かつ慎重に外交に取り組んでいたことを、具体的な事例を取り上げて丁寧に解き明かしている。従来の平安貴族に対する否定的なイメージを一新させる内容である。よく知られている遣唐使の廃止も、実際には廃止されていなかったこと、先進的・開明的とされる平清盛の日宋貿易も当時の枠組みに規定されていたことなど、実に分かりやすく説明されており、まさに目からうろこが落ちる思いがするだろう。
著者は、平安貴族の外交政策や判断・対応に大きな影響を与えたものとして、1当時の政務のあり方、2対外的軍備(国防兵力及び外征軍)の欠如、3神功皇后による三韓征伐伝説を起点とする歴史認識、4海外情報の不足、5海に隔てられた地政学的な条件、を挙げている。
2の対外的軍備の欠如は、桓武朝の軍団兵士制の解体によるものだが、これ以降、国際的な動乱を避けるため、国際的な政治からの離脱の道を取らせたという。3の三韓征伐史観は新羅に服属を強要する政治説話であったが、対外的軍事力を失ってからは、服属を逆恨みする新羅(後継の高麗)という恐怖心を生み、神明に加護を祈る神国思想につながったという。
本書は、平安時代の日本と海外との関係性、国際社会のなかでの日本の立ち位置を明らかにしようとしたものだが、現代日本の外交や平和を考える上でも得るところが多いだろう。
[書き手] 榎本 淳一(えのもと じゅんいち・大正大学教授)
初出メディア

しんぶん赤旗 2023年5月14日
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