書評
『子ども版 声に出して読みたい日本語 5 ややこしや 寿限無 寿限無/言葉あそび』(草思社)
心にまかれた種
「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃりすいぎょの……」いま、息子と競争して「寿限無(じゅげむ)」を暗唱している。こちらは、衰(おとろ)えてきた記憶力に、むち打って。子どもは、だんだんついてきた記憶力を、フル回転させて。これが、情けないことに、けっこういい勝負。
「やぶらこうじのぶらこうじ」というところが、息子は大のお気に入り。ぶら、ぶら、という音の続くのが楽しいようだ。私が「食う寝るところに住むところ」と言って、一息つこうとすると、すかさず「やぶらこうじのぶらこうじ!」と叫んで、どうだという顔をしている。
『子ども版 声に出して読みたい日本語5』が、我々のテキストだ。『子ども版 声に出して読みたい日本語』は、第一巻の「宮沢賢治」から第十二巻の「名言」まで、我が家には揃(そろ)っているのだが、子どもの食いつきが一番よかったのが、この第五巻であつかっている「言葉あそび」だった。
ちょうどテレビ番組の「にほんごであそぼ」でも、幼い子どもが「じゅげむ」を暗唱していた。「この子、すごいね」「こんなに早く言えるんだね」と画面を見て、ライバル意識(?)も芽生えたようだ。こういうのは、大人がやってみせるより、子どもがしているところを目撃するほうが、インパクトがあるらしい。
寿限無の他にも、早口ことばや尻取(しりと)りことば、そして息子の大好きな「付け足しことば」など、遊びこころが詰まった一冊だ。
「驚き桃(もも)の木(き)山椒(さんしょ)の木(き)」「あたりき車力(しゃりき)よ車曳(くるまひ)き」「恐(おそ)れ入谷(いりや)の鬼子母神(きしもじん)」……なんて言葉を、わけもわからず子どもが口にする光景は、見ていて心が躍(おど)る。まさに、言葉で遊んでいる、という感じ。
言葉は、意味を伝えるものだけれど、意味だけでいいのなら「驚き」でじゅうぶんだ。そこを「驚き桃の木山椒の木」と付け足してしまうところに、なんともいえない楽しさ、豊かさがある。
言葉は、つかえばつかうほど減るのではなく、つかえばつかうほど増えるもの。小さなうちから、たくさんつかって、たくさん言葉の貯金をしてほしいな、と思う。
意味なんかよくわからなくても、たとえば一首の和歌や一編の漢詩を覚え、言葉のリズムを味わえれば、それは素晴らしいこと。そして、あるとき、その意味がふっとわかれば、それもいい。子どもが無心に暗唱する言葉は、心にまかれた小さな種だ。将来それが芽を出し、どんな場面で花を咲(さ)かせるかと思うと、わくわくする。
「まかぬたねは、はえぬ」――これも、子どもが幼児雑誌で覚え、わけもわからず口にしている言葉のひとつだ。
満月に向きあいて子が暗唱す那由他(なゆた)不可思議無量大数
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年3月22日
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