書評
『あなたは嫌いかもしれないけど、とってもおもしろい蚊の話 日本の蚊34種類図鑑付き』(山と渓谷社)
好きにはなれずとも嫌う理由は変わるかも
ゴキブリについて話していると、時たま「自分は大丈夫だね」と言い張る人がいる。無理している気もするが、実際に手で叩く人を見たこともあるし、その「大丈夫」は必ずしもウソではない。危害を加えてくるわけではないし、という共感しにくい主張をひとまず受け止める。では、蚊はどうか。実害がある。痒い。うるさい。病気を運ぶ。「大丈夫だね」とは言えない。3人の女性“蚊”学者が、強制的にその魅力を教え込む一冊を読む。蚊のことがすっかり好きになるはずはなく、引き続き嫌いなままだが、嫌い方が変わる。
あの不快な羽音は「ラブソング」で、「恋の季節になると少しずつ羽音を調整しながらハモる相手を見つける」そう。蚊への苛(いら)立ちの多くは、刺していることを気づかせないまま血を吸い、どこかへ消えることだが、それって逆に言えば「痛くない注射針」を持っているということ。
血を吸う長い口は1本の針のように見えて実は7本で、一部の針の側面がギザギザになっており、その先にしか皮膚が触れないことで、痛みが抑えられている。この仕組みは、糖尿病患者のための注射針に応用されているというから驚き。
食糧不足が懸念される現在、昆虫食が注目されているが、その中に蚊も含まれているそう。アフリカ大陸のヴィクトリア湖畔ではフサカを集めてハンバーグにするという。考えただけで痒くなるが、平然と食す日がやって来るのかもしれない。
書籍の後半はありとあらゆる蚊の紹介が並ぶが、その紹介文が「家畜を愛するカントリー派」「国際指名手配中の密入国者」「謎のベールに包まれた美脚系」などと暴走気味。蚊を愛してほしい、という提言が豪快に空回りしているが、その偏愛が、蚊の孤独を教えてくれる。
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