書評
『ポケモンぜんこく全キャラ大事典』(小学館)
ポケモンを窓にして
「好き」ということから生まれるパワーは、すごい。息子は今、ポケットモンスター(ポケモン)に夢中で、ポケモンのこととなると、異様ながんばりを見せ、しばしば私を驚かせる。きっかけは、去年の秋。近所の小学生のお兄ちゃんたちが、ポケモンのカードゲームをしていた。さまざまなポケモンが描かれたカードを使っての対戦。コインをくるくると空中に投げたり、カードを横にしたり、ワザを使って相手にダメージを与え、キラキラの“ダメージカウンター”をカードに載せたり。
「か、かっこいい……!」
ルールは全くわからないのに、息子は棒立(ぼうだ)ちのまま、一時間近く食い入るように見ていた。
それからは「ポケモンのカード買って買って」攻撃が続いたのだが、幼稚園児には無理だろうと思って取り合わなかった。すると息子は、「じゃあ、自分で作る」と言いだし、厚紙を切って、私に絵を描かせ、必死で色を塗り、カタカナも見よう見まね、稚拙(ちせつ)なカードを何枚も作りあげた。
図画工作の類は苦手で、好きではないはずなのに……あまりに健気な様子に根負けしてしまい「じゃあ、サンタさんにお願いしたら」ということになり、初心者向けのポケモンカードゲームセットを手に入れたのが十二月。
「小躍り」を初めて見たりポケモンのカードを掲げ回りやまぬ子
案の定、ルールはかなり複雑で、私でさえ理解するのにしばらくかかった。そのうえダメージを計算するためには、「20+30=50」とか「110-30=80」ぐらいの足し算、引き算ができなくてはならない。カードに書いてあるワザの説明も、漢字が多く使われている。
絶対無理だと思ったのだが、目をギラギラさせて、ボーボー燃えて「教えて! 何て書いてあるの! どうすればいいの!」と息子は迫ってくる。しかたなく私も腹を据(す)えて、試行錯誤に叱咤(しった)激励、右往左往しながら三カ月。ついに一人で、まともに対戦できるところまでこぎつけた。
親バカではあるが、よくまあがんばった。これがチェスとか囲碁(いご)だったら、一生モノの趣味になるだろうに。そう思うと、もったいないぐらいのがんばりだ。
最近購入して、なめるように見ている『ポケモンぜんこく全キャラ大事典』にしても「昆虫とか花の名前を、これぐらい熱心に覚えてくれたら」と、思わないでもない。しかし、この本のおかげで、辞書のひきかたのイロハは覚えたようだ。「ヘイガニは、ハ、ヒ、フ、へ……ハ行のポケモンだな」などとやっている。
ポケモンを窓にして、いろいろなことを学ぶ。それは算数の時間に足し算を、国語の時間に漢字を、机に向かって教えられるより、たぶんずっと楽しい。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2009年03月28日
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