書評

『田んぼのいのち』(くもん出版)

  • 2023/04/30
田んぼのいのち / 立松 和平
田んぼのいのち
  • 著者:立松 和平
  • 出版社:くもん出版
  • 装丁:大型本(34ページ)
  • 発売日:2001-07-01
  • ISBN-10:477430462X
  • ISBN-13:978-4774304625
内容紹介:
「行動派作家」として知られる立松和平の「いのち」の絵本シリーズ第4弾。『山のいのち』、『海のいのち』、『街のいのち』に続くこの『田んぼのいのち』では、「人間の苦しみと、しかし、苦し… もっと読む
「行動派作家」として知られる立松和平の「いのち」の絵本シリーズ第4弾。『山のいのち』、『海のいのち』、『街のいのち』に続くこの『田んぼのいのち』では、「人間の苦しみと、しかし、苦しいだけではないと応えてくれる自然への信頼」をテーマに描いている。
3年前に小学校も廃校となった過疎の村。近所で米作りをするのは、とうとう賢治さんと春子さん夫婦だけになった。しかも草刈りの途中で春子さんが倒れてしまう。それでも稲はぐんぐんのびて、田んぼにはいのちがみなぎっている。

絵は、著者の実の娘で、前作からのコンビとなる横松桃子。ひっかいたような繊細な線で描かれる老人の姿は若々しい。それは、50年間米を作っていても、「五十回しかつくってなくて、一年生の気分」でいるという謙虚ないのちの姿だ。

今この瞬間にも消えていく日本の原風景や、自然に対する姿勢について考える機会を与えてくれる、子ども向けと一概に言いきれない1冊である。(小山由子)

田植えの経験から

先月、山形の月山(がっさん)のふもとで、息子が田植えをしてきた。

「もうねえ、どろが、べたーぐちゃー、ねとーってねえ、きもちわるいの! しりもちついたら、やるきがなくなったの!」

着ているものが、めちゃくちゃだったので(下着は脱いでいて、田植え用のボロTシャツをキレイなまま着ている)、「ん? どういう格好で植えたの?」と聞いても、「もう、そんなのわかんないよ~。つかれすぎて、なにがなんだか~」と、ぐったりしている。やる気がなくなったわりには、精一杯植えてきたようだ。

せっかく田植えを経験したのだから、と思い本棚を探すと、あった。『田んぼのいのち』。私は、この本の絵を手がけた桃子さんのファンで、個展でいくつかの作品を買ったほど。『田んぼのいのち』も、ずいぶん前から自分の本棚にある。

息子に表紙を見せると、おもしろいように反応した。

「なんか、ぐちゃぐちゃだね! うおー、葉っぱがここから水玉になってる……げいじゅつ?」

芸術って……。いつのまに、そんな言葉を覚えたのか。いやしかし、つかいかたは間違っていないぞ、とも思う。

物語はシンプルでリアル。過疎の村で、米を作りつづけている賢治さんの、四季折々の仕事が、豊かな自然とともに描かれてゆく。奥さんが病気になったり、隣人が腰を痛めたり、そういうこともある。

「……もみが白い根をだして培土(ばいど)をかみ、いっせいに白い芽を立てました」「五十年間米をつくっている賢治さんも、五十回しかつくってなくて、いつも一年生の気分です」。印象深い表現が随所にある。骨太でリアルな文章と、繊細でリアルすぎない絵との組み合わせ。読んでいると、なぜか、しーんとした気持ちになる絵本だ。

雪の場面から始まり、最後はまた大地は雪に閉ざされる。時のめぐりと命のめぐりとが、自然に心に沁みてくる。

息子は「たった一粒(つぶ)を土にまくと、秋にはおよそ百八十粒にもなるのです」で、大きく目を見開き、「米は人の命も養うし、米そのものが命なのです」というところで、口をはさんできた。

「米そのものが命って、どういう意味?」

「だから、お米も生きていて、一粒のお母さんから百八十粒の子どもが生まれて、命がつながっていくってことだよ」――答えながら、これはすごいことだなあと思う。

「お母さんなんかさ、お母さん一粒から、たくみん一粒だよ」

そう言うと、しばらく考えこんでいたが、たくみん、ぱっと明るい顔になった。

「でもさ、ためちゃんは、二粒だね!」

「ためちゃん」は、私の弟のお嫁さんだ。最近、第二子を出産した。

「そうだ、二粒だ、すごいすごい」

赤ちゃんを粒で数えて申し訳ないが、何だか嬉しい気持ちで、絵本を閉じた。

  一粒の命を思う 田植えせし米の実りの便りを聞けば

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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田んぼのいのち / 立松 和平
田んぼのいのち
  • 著者:立松 和平
  • 出版社:くもん出版
  • 装丁:大型本(34ページ)
  • 発売日:2001-07-01
  • ISBN-10:477430462X
  • ISBN-13:978-4774304625
内容紹介:
「行動派作家」として知られる立松和平の「いのち」の絵本シリーズ第4弾。『山のいのち』、『海のいのち』、『街のいのち』に続くこの『田んぼのいのち』では、「人間の苦しみと、しかし、苦し… もっと読む
「行動派作家」として知られる立松和平の「いのち」の絵本シリーズ第4弾。『山のいのち』、『海のいのち』、『街のいのち』に続くこの『田んぼのいのち』では、「人間の苦しみと、しかし、苦しいだけではないと応えてくれる自然への信頼」をテーマに描いている。
3年前に小学校も廃校となった過疎の村。近所で米作りをするのは、とうとう賢治さんと春子さん夫婦だけになった。しかも草刈りの途中で春子さんが倒れてしまう。それでも稲はぐんぐんのびて、田んぼにはいのちがみなぎっている。

絵は、著者の実の娘で、前作からのコンビとなる横松桃子。ひっかいたような繊細な線で描かれる老人の姿は若々しい。それは、50年間米を作っていても、「五十回しかつくってなくて、一年生の気分」でいるという謙虚ないのちの姿だ。

今この瞬間にも消えていく日本の原風景や、自然に対する姿勢について考える機会を与えてくれる、子ども向けと一概に言いきれない1冊である。(小山由子)

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年06月24日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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