書評

『中国くいしんぼう辞典』(みすず書房)

  • 2019/12/27
中国くいしんぼう辞典 / 崔岱遠
中国くいしんぼう辞典
  • 著者:崔岱遠
  • 翻訳:川浩二
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(392ページ)
  • 発売日:2019-10-17
  • ISBN-10:4622088274
  • ISBN-13:978-4622088271
内容紹介:
多様な風土にさまざまな文化が混在する中国で、おいしいものを追い求めるくいしんぼうたちの胃袋をとらえた垂涎必至の絶品エッセイ!

土地の食べ物こそが文明の根本

中華料理が好きな人には至福の1冊だ。吃貨(チーフォ)と呼ばれるくいしんぼうの著者が、ネットを介して得た粉糸(フェンスー=ファン)のコメントを参考に、約100皿の中国版美味礼賛を書き上げた。著者は、「土地に馴染み、庶民に根づいた食べ物こそが文明の根本だ」と考える。何人家族かと尋ねられれば、「3人」とは言わず「3口」と答えるのが中国だ。書き出しからもうワクワクする。

本書は「家で食べる」「街角で食べる」「飯店(レストラン)で食べる」の3部構成となっている。家の字は住む場所を示すかんむりの下に1頭の豚がいるということで、もちろんこの豚の肉を食うためだ。その代表が普段のおかずではないが、紅焼肉(ホンシャオロウ=豚の角煮)だ。蘇東坡が愛した紅焼肉は杭州の名物料理、東坡肉(トンポーロウ)となった。

上海の街角では生煎(サンジー=焼き小籠包)が有名だが、食べ方にはコツが要る。下手にかぶりついたら煮えたスープが飛び散るからだ。

飯店では、まず白切鶏(パイチエジー=蒸し鶏)。上古の祭祀では丸のままの牛、豚、羊を鼎(かなえ)の中で煮、大皿にのせて捧げた後の肉は刀で薄く切り、みそなどを塗って家臣に下した。これが割烹(かっぽう)の語源であるが、丸煮の遺風を留めているのが白切鶏だ。

世界中で人気のある古老肉(グーラオロウ=酢豚)は、広州で西洋人の好みに合わせウスターソースを使って新しく作られた創作料理だった。牡丹燕菜(ムーダンイエンツァイ=大根の細切りスープ仕立て、卵で作った牡丹の花を添えて)は、武則天と周恩来の2人が千年の時を隔てて命名した名菜である。なぜ、この2人が。それは本書を読んでください。あぶる烤鴨(カォヤー=アヒルのあぶり焼き)、中でも有名な北京ダックは、清末に発明され1930年代になって人口に膾炙(かいしゃ)し始めた。

と、ここまで書いてきただけで、よだれがたれてきた。ああ今すぐ中国に飛んでいって、腹いっぱい中華料理を食べたい。添えられた美しい挿画がさらに食欲をそそる。
中国くいしんぼう辞典 / 崔岱遠
中国くいしんぼう辞典
  • 著者:崔岱遠
  • 翻訳:川浩二
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(392ページ)
  • 発売日:2019-10-17
  • ISBN-10:4622088274
  • ISBN-13:978-4622088271
内容紹介:
多様な風土にさまざまな文化が混在する中国で、おいしいものを追い求めるくいしんぼうたちの胃袋をとらえた垂涎必至の絶品エッセイ!

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2019年11月30日

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