書評

『信長家臣明智光秀』(平凡社)

  • 2020/01/05
信長家臣明智光秀 / 金子 拓
信長家臣明智光秀
  • 著者:金子 拓
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(231ページ)
  • 発売日:2019-10-17
  • ISBN-10:4582859232
  • ISBN-13:978-4582859232
内容紹介:
来年度の大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・光秀の生涯を描く。信長研究の最新成果を知る著者が、本能寺の変までを描ききる決定版!

謎めいた人物の生涯に高度な実証史学で肉薄

私たちが社会的人間として日常を送るときに必要不可欠なのは、確かな根拠に基づき考え、行動すること。いつでもエビデンスを明示できるようにしておく姿勢である。自分勝手な思い込みではなく、確たる証拠に則して思考し、他者と関わる。それが大人の振る舞いである。

学問にも当然同じことが、より高い精度で要求される。きちんと証拠を挙げ、だれもが納得できるように合理的に思考を展開する。そうしたプロセスを経てこそ、その達成はみなが共有できるものとなる。このとき、証拠として用いられるのが歴史資料、すなわち史料である。

日本は長い歴史と伝統の国であるが、特筆すべきは保存された史料の豊かさで、おそらく質量ともに世界一だろう。この史料を基に、明治以来高度に発展してきたのが実証史学といわれる手法である。

史料の質を丁寧に見極め、そこから歴史像を無理なく抽出する。いま日本史の学界でこの作業にもっとも熟達している一人が(私個人としては「一」をとっても良いとさえ評価する)、本書の著者、金子拓(ひらく)さんである。金子さんは日ごろ『大日本史料』という歴史史料集の編纂(へんさん)に従事しているが、そこで得たスキルを存分に振るい、明智光秀という謎だらけの人物の生涯を復元している。それから金子さんは他の研究者の成果も丹念に拾い、過不足ない言及を加える。こうした点が、彼がみなに愛され、信頼される所以(ゆえん)であろう。

光秀といえば本能寺の変。著者はしきりに新味がないと謙遜するが、とんでもない。事件にいたる重厚な議論の積み重ねが十分な説得力になっている。

学問的に光秀を追いかけるなら、この一冊だけで良い。そう言わしめる完成度を持つ。テレビドラマのおともにぜひ!
信長家臣明智光秀 / 金子 拓
信長家臣明智光秀
  • 著者:金子 拓
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(231ページ)
  • 発売日:2019-10-17
  • ISBN-10:4582859232
  • ISBN-13:978-4582859232
内容紹介:
来年度の大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・光秀の生涯を描く。信長研究の最新成果を知る著者が、本能寺の変までを描ききる決定版!

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年12月29日号

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