書評

『ビリー・ザ・キッド全仕事』(白水社)

  • 2020/03/07
ビリー・ザ・キッド全仕事  / マイケル・オンダーチェ
ビリー・ザ・キッド全仕事
  • 著者:マイケル・オンダーチェ
  • 翻訳:福間 健二
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(216ページ)
  • 発売日:2017-04-11
  • ISBN-10:4560072132
  • ISBN-13:978-4560072134
内容紹介:
伝説的アウトローの愛と死と暴力に満ちた生涯を、詩、挿話、写真、インタビューなどで再構成。斬新な手法で鮮烈な生の軌跡を描く。
オーディ・マーフィー、ポール・ニューマン、クリス・クリストファーソンらが映画で演じたビリー・ザ・キッドといえば、どこか淋しげで夕陽の似合う黒ずくめの色男だったもんだから、初めて実物の写真を見た日にゃ驚いた。チビで出歯でひょろっとした単なるガキンチョ。梶井基次郎の写真を見た時の衝撃(このゴリラーマンが、あの『檸檬』の、さ、作者⁈)ほどではないにしても、伝説のアウトローに対する美的幻想は一気に崩れ去ったのは言うまでもない。

が、美しくなくとも、やはりビリーを巡る言説はカッコイイと再確認させてくれるのが本書なんである。左利きの危険な拳銃使いの短い生涯を、詩、エピソード、写真、証言、インタビューなどで再構成。しかも、それら短い断章それぞれの語り部が、ビリー、宿敵のパット・ギャレット、作者へと、目まぐるしく変わっていく。とまあ、なかなかに手ごわいテキストではあるのだが、この入り組んだ手法自体が、数々の伝説ゆえに全貌をとらえ切るのが一筋縄ではいかないビリー・ザ・キッドというキャラクターそのものを表現しているともいえるのだ。

とはいえ、解釈など無用とばかりに勢いだけで読み進んでいってもビリー=本書のカッコよさは十二分に実感できる。“良くも悪しくも仕掛けがなければ”という現代文学の作者たちが背負ったポストモダンの十字架の重さを感じさせない、軽やかでスタイリッシュな語り口ゆえに、構成は難解であるにもかかわらず、エンターテインメントを読む時みたいにページを繰る手が止まらないのだ。

この難解なのに面白いという希有な本を書いたのは、カナダ人のオンダーチェ。本邦初紹介の作家である(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1994年)。国書刊行会は大手出版社が出すのを渋るマイナーな作家をフィーチャーしてくれる、本好きにとってはありがた~い出版社。今後も頑張ってというエールを送る意味でも、この本が売れてくれることを切に祈る次第だ。

余談だけれど、『ヤングガン』のエミリオ・エステベスは実物のビリーに近いと思う。

【単行本】
ビリー・ザ・キッド全仕事  / マイケル・オンダーチェ
ビリー・ザ・キッド全仕事
  • 著者:マイケル・オンダーチェ
  • 翻訳:福間 健二
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(193ページ)
  • ISBN-10:4336035822
  • ISBN-13:978-4336035820
内容紹介:
左利きの拳銃、危険な恋人、夢見る殺人者、西部の英雄ビリー・ザ・キッド。そのロマンスとヴァイオレンスに彩られた短い生涯を、詩、挿話、写真、証言、インタビューなどで再構成。略奪と逃走… もっと読む
左利きの拳銃、危険な恋人、夢見る殺人者、西部の英雄ビリー・ザ・キッド。そのロマンスとヴァイオレンスに彩られた短い生涯を、詩、挿話、写真、証言、インタビューなどで再構成。略奪と逃走、銃撃戦、つかの間の平和、激しい愛、友人にして宿敵、保安官パット・ギャレットとの抗争…さまざまな断片が物語る、愛と生と死の物語。アウトロー伝説に材をとり、鮮烈な生の軌跡を描いた、ブッカー賞作家オンダーチェのアヴァンポップ・フィクション。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ビリー・ザ・キッド全仕事  / マイケル・オンダーチェ
ビリー・ザ・キッド全仕事
  • 著者:マイケル・オンダーチェ
  • 翻訳:福間 健二
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(216ページ)
  • 発売日:2017-04-11
  • ISBN-10:4560072132
  • ISBN-13:978-4560072134
内容紹介:
伝説的アウトローの愛と死と暴力に満ちた生涯を、詩、挿話、写真、インタビューなどで再構成。斬新な手法で鮮烈な生の軌跡を描く。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

ダカーポ(終刊)

ダカーポ(終刊) 1994年10月19日号

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