著名翻訳家の思考の足跡
翻訳家として名高い著者によるエッセイ集。こう書くと、仕事上のあれこれを書いているように思われるかもしれないが、まったくそうではない。自由で、該博な知識に裏打ちされた思考の足跡が描き出されている。きっかけは、ケープタウン。著者が訳したJ・M・クッツェーが暮らした南アフリカの都市。そこで、あるワイナリーに立ち寄る。「ワイン」と「コンスタンシア」という2つの語に導かれるように、フランスの19世紀の大詩人ボードレールの詩句が脳裡によみがえる。
ボードレールが生涯愛した褐色の恋人ジャンヌ・デュヴァル。彼女のルーツを経めぐる思考の旅は、カリブ海へと及ぶ。「黒い女たちの影」を追い求める、達意の文章。