コラム

バルザック『ペール・ゴリオ』(藤原書店)、バルザック『幻滅』(藤原書店)、バルザック『従妹ベット』(藤原書店) 、ユゴー『レ・ミゼラブル』(岩波書店) ほか

  • 2021/10/14

私編パリ文学全集を編集する

一年ほど前、知合いが建て替えのために家を取り壊すので、不要になった子供用百科事典をもらってくれないかといってきた。ちょうど、小学生の次男がそうした百科事典をほしがっていたところなので、これ幸いと受け取りに出かけた。すると、その家の若い奥さんが、ついでだから家にある日本文学全集と世界文学全集も全部もっていってくれないかといった。亡くなった舅(しゅうと)が買ったものだが、新しい家には置く場所もないし、だれも読む者がいないというのがその理由である。見ると、どちらも完全揃(ぞろ)いでほとんど読んだ形跡がない。古本屋に売ったらいいではないかというと、古本屋に問い合わせたところ、いまでは文学全集は、たとえ揃いでも、またタダでも引き取らないと告げられたそうである。もって行ってくれなければゴミとして捨てるほかないというので、それならばと、二つの全集を家にもってかえった。

思えば、昭和三十年代から四十年代の初めにかけては、居問の本棚の文学全集が、玄関先のゴルフ・バッグ、サイド・ボードのジョニ黒とならんで、プチ・ブル家庭のステータス・シンボル三点セットだった時代もあった。それがいまでは、文学全集は、「万里の長城」「戦艦大和」並の無用の長物と化している。まさに隔世の感がある。

たしかに、若者はおろか中年も、いや熟年さえも、いまさら教養として文学全集を読む気にはなれないだろう。ありとあらゆるお手軽な娯楽が揃い、物質的な面でなに一つ不自由してはいないのだから、「いかに生くべきか」を考えるために文学全集を繙(ひもと)こうなどと思う人間がいるわけはない。この点は、私とてまったく同じである。
しかし、である。はたして、文学全集は、本当につまらないものだろうか? また、教養や人格形成以外に使い道はないのだろうか? 結論からいえば、これは、偏見に基づく完全な誤解である。その理由はいたってはっきりしている。すなわち、教養や人格形成の手段として「文学全集」なるものを編んだ国は世界でも日本しかないからである。とりわけ、世界文学全集についてはそれがいえる。つまり、外国には「教養」を身につけるために『ボヴァリー夫人』『戦争と平和』『白鯨』を読む若者などはいないのだ。そもそも、こんな高級な大人の文学を、十七、八の若僧が読んで解るわけがないではないか。元来古典というのは、ありとあらゆる人生経験を積んだ大人が、対等の読者に語りかけたものだからこそ後世に残ったのである。人生をまだ所有していない若者に教訓をたれるために書かれたのではない。
とするなら、いったん「教養」という枠組を取り払って「世界文学全集」を解体し、個々の作品としてこれを読んでみてはどうだろう。といっても一巻目から順番にとか、国別にというのでは結局同じことになるから、何かしら自分なりの組み替えコードをかぶせたほうがいい。

たとえば、ごく簡単なところで、こんなのはどうか。すなわち、国別ではなく、都市別に世界文学全集を自分で編纂(へんさん)するのである。最近はパリやロンドンなどに十万円そこそこの料金でいけるので、外国の都市に親しんでいる人も多いはずだから、これは思いつきとしては悪くはない。自分の好きな都市を描いた作品を世界文学全集からいくつか取り出してひとつに集めてみれば、その都市の奥行きというものがわかって、旅も一段と興味深いものになるはずだ。

とりあえず、私の専門であるパリ編として、どんなものが考えられるか。まずバルザックの『ゴリオ爺さん』(新潮・筑摩)である。これはタイトルから見るとひどく退屈そうに見える。だれだって「爺さん」の小説を読みたいとは思わない。おそらく文学全集の中でも最も読まれずにいる巻のひとつだろう。ところがこれが大間違い。語のあらゆる意味でこんなに面白い小説はないし、パリについてこれだけ詳細に教えてくれる本もない。第一、主人公はゴリオ爺さんではなく成り上がろうという野心を抱いてパリにのぼった貧乏学生ラスチニャックだから、小説は自動的にお上りさん用のパリ・ガイドになっている。ラスチニャックはパンテオンの裏手の下宿屋に住み、ゴリオ爺さんと出会う。この下宿屋には、謎の中年男ヴォートランも間借りしていて、ラスチニャックはこの男から人生の裏側のメカニズムについて教えられる。この苛酷(かこく)な人生訓だけでも読む価値がある。

ペール・ゴリオ パリ物語 バルザック「人間喜劇」セレクション  / バルザック
ペール・ゴリオ パリ物語 バルザック「人間喜劇」セレクション
  • 著者:バルザック
  • 翻訳:鹿島 茂
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(466ページ)
  • 発売日:1999-05-30
  • ISBN-10:4894341344
  • ISBN-13:978-4894341340
内容紹介:
パリのヴォケール館に下宿する法学生ラスティニャックは野心家の青年である。下宿にはゴリオ爺さんと呼ばれる元製麺業者とヴォートランと名乗る謎の中年男がいる。伯爵夫人を訪問したラスティ… もっと読む
パリのヴォケール館に下宿する法学生ラスティニャックは野心家の青年である。下宿にはゴリオ爺さんと呼ばれる元製麺業者とヴォートランと名乗る謎の中年男がいる。伯爵夫人を訪問したラスティニャックは、彼女が、ゴリオの娘だと知らずに大失敗をする。ゴリオは二人の娘を貴族と富豪に嫁がせ、自分はつましく下宿暮らしをしていたのだ。ラスティニャックはゴリオのもう一人の娘に近づき社交界に入り込もうとするが、金がないことに苦しむ。それを見抜いたヴォートランから悪に身を染める以外に出世の道はないと誘惑されるが、ヴォートランが逮捕され、危やうく難を逃れる。娘たちに見捨てられたゴリオの最期を見取った彼は、高台の墓地からパリに向かって「今度はおれとお前の勝負だ」と叫ぶ。

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いっぽう、ラスチニャックの憧(あこが)れる貴族の邸宅街フォーブール・サン=ジェルマンでは、『赤と黒』(河出他)のジュリアン・ソレルが、令嬢マチルドと「虚栄恋愛」の火花を散らしている。

『ゴリオ爺さん』と同工の、「野心家青年パリにのぼる」の小説としては、同じバルザックの『幻滅』(河出)をお薦めしたい。というのも、これは『ゴリオ爺さん』の続編のような小説で一足先にパリでダンディに成りすましたラスチニャックが同郷の後輩リュシアン・ド・リュパンプレをさんざんいたぶるという構成になっているからだ。背景はチュイルリ公園、パレ・ロワイヤル、グラン・ブールヴァールなど、様々なスポットが登場するので文学散歩するには最適である。もちろん小説としての面白さもダントツでこれを読んだら現代小説なんて馬鹿らしくて読めない。

幻滅 ― メディア戦記 上 / バルザック
幻滅 ― メディア戦記 上
  • 著者:バルザック
  • 翻訳:野崎 歓,青木 真紀子
  • 編集:鹿島 茂,山田 登世子,大矢 タカヤス
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(480ページ)
  • 発売日:2000-09-01
  • ISBN-10:4894341948
  • ISBN-13:978-4894341944
内容紹介:
純朴な田舎の美青年リュシアンは文学的野心に燃え、地元社交界のスターである人妻とパリへ出奔するが、彼女に捨てられてしまう。理想に殉じ清貧に甘んじる青年詩人たちと知り合った彼は、その… もっと読む
純朴な田舎の美青年リュシアンは文学的野心に燃え、地元社交界のスターである人妻とパリへ出奔するが、彼女に捨てられてしまう。理想に殉じ清貧に甘んじる青年詩人たちと知り合った彼は、その同志となる。だが安食堂で出会ったジャーナリストの手引きにより、いつしか新聞・出版業界の裏側へと迷い込む。そこで彼が見たものは、お追従記事や事実の捏造、いんちきの署名等々。メディアの汚濁に浸かりきった元詩人は、幻滅の果てに帰郷する。すると印刷業に精を出す、親友にして義弟ダヴィッドが同業者に騙され、おまけにリュシアンのミスのせいで逮捕されてしまった!絶望に沈み、自殺を決意してさまようリュシアンの前に、スペイン語訛りの謎の男が現れる…。

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バルザックのお上り青年が野心満々なのに対し、フロベールの『感情教育』(中公)の主人公フレデリック・モローは、戦う前から疲れたダメ男である。この小説は若いときに読むと、ただうっとうしいだけだが、中年過ぎてから読むと、モロー君の優柔不断な態度に、むしろ親しみを感じる。挫折(ざせつ)した青年のドラマ。パリは全域がカバーされている。

感情教育〈上〉 / フローベール
感情教育〈上〉
  • 著者:フローベール
  • 翻訳:生島 遼一
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(401ページ)
  • 発売日:1971-03-16
  • ISBN-10:4003253833
  • ISBN-13:978-4003253830
内容紹介:
19世紀も半ば、2月革命に沸く動乱のパリを舞台に多感な青年フレデリックの精神史を描く。小説に描かれた最も美しい女性像の一人といわれるアルヌー夫人への主人公の思慕を縦糸に、官能的な恋、打算的な恋、様々な人間像や事件が交錯してゆく。ここには、歴史の流れと人間の精神の流れが、見事に融合させられている。

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反対に、勝ち逃げのドラマだったら、モーパッサンの『ベラミ』(筑摩・集英社)。こちらは、ベル・エポックのパリ盛り場案内の趣あり。ゾラの『ナナ』(河出)は、娼婦の話なので十九世紀半ばの風俗的パリ・ガイドとして役立つ。

ベラミ〈上〉 / モーパッサン
ベラミ〈上〉
  • 著者:モーパッサン
  • 翻訳:杉 捷夫
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(295ページ)
  • 発売日:1977-02-16
  • ISBN-10:4003255038
  • ISBN-13:978-4003255032
内容紹介:
『女の一生』に続くモーパッサンの長篇第二作。ひたすら女から女へとわたり歩き栄達をめざす男のシニカルな行動を描く。

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以上がブルジョワのパリであるのに対し、中下層階級のパリはバルザックの『従妹ベット』(河出他)、ユゴー『レ・ミゼラブル』(河出)、ゾラ『居酒屋』(河出他)で味わうことができる。界隈(かいわい)でいえば『従妹ベット』はルーヴル中庭にあったバラック街、『レ・ミゼラブル』はカルチエ・ラタンの裏手、『居酒屋』はモンマルトルの下のグット・ドール、といったように、昔のパリの貧民街が克明に描かれている。ただし、グット・ドールは現在完全にスラム化してしまっているので観光客が足を踏みいれるのは危険である。

従妹ベット 上  / バルザック
従妹ベット 上
  • 著者:バルザック
  • 翻訳:山田 登世子
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(346ページ)
  • 発売日:2001-07-20
  • ISBN-10:4894342413
  • ISBN-13:978-4894342415

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レ・ミゼラブル〈1〉 / ヴィクトル ユーゴー
レ・ミゼラブル〈1〉
  • 著者:ヴィクトル ユーゴー
  • 翻訳:豊島 与志雄
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(608ページ)
  • 発売日:1987-04-16
  • ISBN-10:4003253116
  • ISBN-13:978-4003253113

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ボードレールの『悪の華・パリの憂愁』(筑摩・中公)には具体的記述は少ないが、パリの雰囲気を味わうのには最適。

悪の華 / ボオドレール
悪の華
  • 著者:ボオドレール
  • 翻訳:鈴木 信太郎
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(491ページ)
  • 発売日:1961-04-05
  • ISBN-10:400325371X
  • ISBN-13:978-4003253717
内容紹介:
目次
〔獻辭〕 / 16
讀者に / 19
憂鬱と理想
巴里風景

惡の華
叛逆

附記

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パリの憂愁 / ボードレール
パリの憂愁
  • 著者:ボードレール
  • 翻訳:福永 武彦
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(196ページ)
  • 発売日:1966-01-00
  • ISBN-10:4003253728
  • ISBN-13:978-4003253724
内容紹介:
晩年のボードレールが、年老いた香具師や寡婦たち、群衆や狂人や貧乏人たちを、また永久に変わることのない「蟻のように人の群れる都会」パリの風物をうたった詩50篇。韻律も脚韻もないが充分に音楽的であるような詩、すなわち散文詩という新たなジャンルを切り拓き、マラルメ、ランボーなどのフランス散文詩の出発点となった。

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二十世紀のパリとなると、むしろフランス以外の方が豊富である。ベル・エポックの暗く陰鬱(いんうつ)なパリは、なんといってもリルケの『マルテの手記』(河出)にとどめをさす。一九二〇年代のパリのアメリカ人だったら、もちろんヘミングウェイの『日はまた昇る』(中公)だ。ヘンリー・ミラーの『北回帰線』がどの文学全集にも入っていないのは残念。イギリスからは、エリザベス・ボウエンの『パリの家』(集英社)とジューナ・バーンズの、『夜の森』(同)の二人の女流が描いたパリがいい。ポーランドからは、架空のパリだが、ヤセンスキーの『パリを焼く』(同)などという、変わり種をもってくるのも一興である。第二次大戦前夜ということだったら、当然、レマルクの『凱旋門(がいせんもん)』(河出)である。

マルテの手記 / ライナー・マリア リルケ
マルテの手記
  • 著者:ライナー・マリア リルケ
  • 翻訳:松永美穂
  • 出版社:光文社
  • 装丁:文庫(394ページ)
  • 発売日:2014-06-12
  • ISBN-10:4334752624
  • ISBN-13:978-4334752620

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日はまた昇る / アーネスト ヘミングウェイ
日はまた昇る
  • 著者:アーネスト ヘミングウェイ
  • 翻訳:大久保 康雄,高見 浩
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(487ページ)
  • 発売日:2003-06-28
  • ISBN-10:410210013X
  • ISBN-13:978-4102100134
内容紹介:
禁酒法時代のアメリカを去り、男たちはパリで"きょうだけ"を生きていた-。戦傷で性行為不能となったジェイクは、新進作家たちや奔放な女友だちのブレットとともに灼熱のスペインへと… もっと読む
禁酒法時代のアメリカを去り、男たちはパリで"きょうだけ"を生きていた-。戦傷で性行為不能となったジェイクは、新進作家たちや奔放な女友だちのブレットとともに灼熱のスペインへと繰り出す。祝祭に沸くパンプローナ。濃密な情熱と血のにおいに包まれて、男たちと女は虚無感に抗いながら、新たな享楽を求めつづける…。若き日の著者が世に示した"自堕落な世代"の矜持。

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夜の森 / D・バーンズ
夜の森
  • 著者:D・バーンズ
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(187ページ)
  • ISBN-10:4336027579
  • ISBN-13:978-4336027573

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いっぽう二十世紀のフランス勢はといえば、ベル・エポックから第一次大戦後までをカバーする、プルーストの『失われた時を求めて』(筑摩)だけでも外国勢に十分対抗できるが、これに、少し昔の新潮文学全集に入っていたジュール・ロマンの『善意の人々』を加えれば鬼に金棒である。穴場狙いの向きにはセリーヌの『なしくずしの死』(集英社)をあげたい。薄汚れたパサージュが実に生き生きと描かれている。さらに、二十世紀のパリを味わうための大穴としては、アラゴンの『お屋敷町』(同)と『死刑執行』(中公)がお薦め。政治的立場がアラゴンと反対のドリュ・ラ・ロシェルの『ジル』(集英社)をあわせて読めばパリばかりか政治の勉強にもなる。変わったところでは、ブルトンの『ナジャ』(中公)と、クノーの『地下鉄のザジ』(同)で、シュルレアリストのパリを楽しむというのも悪くない。女が主人公のパリとしては、コレットの『さすらいの女』とボーヴォワールの『娘時代』が、一巻(中公)になっているので便利だ。
十八世紀以前のパリを知りたいという人のためには、ルソーの『告白』(河出)とディドロ『ラモーの甥(おい)』(筑摩)をあげておく。とくに前者はルソーがパリに着いてあまりの汚さに辟易(へきえき)するところが面白い。

失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 / マルセル・プルースト
失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」
  • 著者:マルセル・プルースト
  • 翻訳:高遠 弘美
  • 出版社:光文社
  • 装丁:文庫(468ページ)
  • 発売日:2010-09-09
  • ISBN-10:4334752128
  • ISBN-13:978-4334752125
内容紹介:
色彩感あふれる自然描写、深みと立体感に満ちた人物造型、連鎖する譬喩…深い思索と感覚的表現のみごとさで20世紀最高の文学と評される本作。第1巻では、語り手の幼年時代が夢幻的な記憶とともに語られる。豊潤な訳文で、プルーストのみずみずしい世界が甦る。

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なしくずしの死〈上〉 / ルイ‐フェルディナン セリーヌ
なしくずしの死〈上〉
  • 著者:ルイ‐フェルディナン セリーヌ
  • 翻訳:高坂 和彦
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(454ページ)
  • 発売日:2002-03-01
  • ISBN-10:4309462197
  • ISBN-13:978-4309462196
内容紹介:
『夜の果てへの旅』の爆発的な成功で一躍有名になった作者が四年後の一九三六年に発表した本書は、その斬新さのあまり非難と攻撃によって迎えられた。今日では二十世紀の最も重要な作家の一人として評価されるセリーヌは、自伝的な少年時代を描いた本書で、さらなる文体破壊を極め良俗を侵犯しつつ、弱者を蹂躙する世界の悪に満ちた意志を糾弾する。

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さらに時代をさかのぼって、中世のパリだったら、これはユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』(集英社)以外にない。ルネッサンスの時代ならメリメの『シャルル九世年代記』(中公)か。

以上、すべて既存の世界文学全集の中から作品をあつめてパリ文学全集を編纂してみたが、同じように、ロンドン文学全集、ウィーン文学全集、ペテルブルク文学全集などが可能だろう。あるいは、植民地文学全集などというのもいいかもしれない。

もちろん、都市に限らず、自分に関心のあるテーマで既存の世界文学全集を勝手に編纂し直してみることもできる。たとえば「親と子」というテーマでシェイクスピアの『リヤ王』、ツルゲーネフの『父と子』、ロレンス『息子と恋人』をセットにする。
『ゴリオ爺さん』と『レ・ミゼラブル』もここに入ってくる。

「戦争と革命」のテーマなら、相当多くの候補があがるだろう。ほかに、犯罪・裁判小説の項で『赤と黒』『罪と罰』『異邦人』を一緒に括(くく)ってしまうとか、ようするに何でも好き勝手な編纂ができるわけである。自宅にある一種類の世界文学全集では間に合わないというのであれば、古本屋に出かけてバラで集めればいい。なにしろ、いまでは世界文学全集がセットで何千円という時代なのだから、道楽としては、こんなに金のかからぬものは他にないはずだ。
十万円でパリやロンドンに行き、帰ってきたら、自分で編んだ都市文学全集で思い出に浸る。そして、また出かけて文学散歩を満喫する。老後の楽しみは、もうこれでほとんど決まりである。

注ーー(河出)河出書房世界文学全集 /(新潮)新潮世界文学 /(筑摩)筑摩世界文学大系 /(中公)中央公論世界の文学 /(集英社)集英社世界文学全集

鹿島茂編「パリ文学全集十二選」

①バルザック『ゴリオ爺さん』新潮世界文学
②バルザック『幻滅』河出世界文学全集
③バルザック『従妹ベット』筑摩世界文学大系
④ユゴー『レ・ミゼラブル』河出世界文学全集
⑤フロベール『感情教育』中央公論新集世界の文学
⑥ボードレール『悪の華パリの憂愁』中央公論新集世界の文学
⑦モーパッサン『ベラミ』集英社世界文学全集
⑧プルースト『失われた時を求めて』筑摩世界文学大系
⑨セリーヌ『なしくずしの死』集英社ギャラリー世界の文学
⑩リルケ『マルテの手記』河出世界文学全集
⑪ヘミングウェイ『日はまた昇る』集英社世界文学全集
⑫ジューナ・バーンズ『夜の森』集英社ギャラリー世界の文学


【このコラムが収録されている書籍】
歴史の風 書物の帆  / 鹿島 茂
歴史の風 書物の帆
  • 著者:鹿島 茂
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(368ページ)
  • 発売日:2009-06-05
  • ISBN-10:4094084010
  • ISBN-13:978-4094084016
内容紹介:
作家、仏文学者、大学教授と多彩な顔を持ち、稀代の古書コレクターとしても名高い著者による、「読むこと」への愛に満ちた書評集。全七章は「好奇心全開、文化史の競演」「至福の瞬間、伝記・… もっと読む
作家、仏文学者、大学教授と多彩な顔を持ち、稀代の古書コレクターとしても名高い著者による、「読むこと」への愛に満ちた書評集。全七章は「好奇心全開、文化史の競演」「至福の瞬間、伝記・自伝・旅行記」「パリのアウラ」他、各ジャンルごとに構成され、専門分野であるフランス関連書籍はもとより、歴史、哲学、文化など、多岐にわたる分野を自在に横断、読書の美味を味わい尽くす。圧倒的な知の埋蔵量を感じさせながらも、ユーモアあふれる達意の文章で綴られた読書人待望の一冊。文庫版特別企画として巻末にインタビュー「おたくの穴」を収録した。

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ノーサイド(終刊)

ノーサイド(終刊) 1994年12月号

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