書評

『忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅』(港の人)

  • 2020/06/07
忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅 / 岡村 淳
忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅
  • 著者:岡村 淳
  • 出版社:港の人
  • 装丁:単行本(232ページ)
  • 発売日:2013-04-22
  • ISBN-10:489629260X
  • ISBN-13:978-4896292602
内容紹介:
ブラジルの知られざる日本人移民の人生を描いた記録文学の傑作!

ブラジル在住の記録映像作家・岡村淳が、土地なし農民運動のリーダー、広島で被爆し、在外被爆者問題で奔走した男性、70歳を過ぎて陶芸に打ち込んだ女性陶芸家など、ブラジルで逞しく、情熱的に生きる6人の日本人移民の人生をゆるみのない確かな筆致で描く。
長年著者と親交を深めている作家・星野智幸氏が「七人の移民」と題して本書に寄稿。
巻末には「岡村淳 自主制作作品フィルモグラフィー」を掲載。

〈家〉なき存在の現実を映す

著者の岡村淳は1987年にブラジルに移住して以来、小型ビデオカメラを片手にたった一人でドキュメンタリーを撮り続けている。彼の初期の代表作が、ナメクジの生態を記録した番組であることの意味は大きい。

カタツムリが平気でも、ある意味〈家なし〉のカタツムリであるナメクジを嫌悪する人は多い。「無視され、あるいは偏見を浴びせられている存在」に視線を傾けずにはいられないところにこの希有(けう)な記録映像作家の特質がある。

日本からブラジルに渡った移民は二つの国の言語・文化の〈あいだ〉を生きざるをえない、いわば〈家〉なき存在である。労苦を重ね、ひどい差別を受けながらも、たくましく生き抜いてきた名もなき日本人移民たちの〈痕跡〉を、岡村は映像ではなく、〈言葉〉で記録する。

大地主や権力者に搾取・迫害される〈土地なし農民〉たちの闘争運動のリーダーとなった石丸さん。60年ぶりに帰国し姉と再会する80歳の陽気な妙子さん。私財を投じて、広島・長崎での被爆経験のある移民を支援する高潔な森田さん。軍国日本を嫌い、ブラジル移民の父・水野龍の書生となってかの地に渡った石井さんと、70歳にして陶芸家となった妻の敏子さん。どの方も忘れがたい魅力を備えて読者に迫ってくる。

移民の記録映像作家として、〈あいだ〉にあることの辛酸を嘗(な)めてきた著者は、売るためのステレオタイプや〈社会的弱者の救済〉というお題目を羅列する商業主義的なテレビやジャーナリズムと一線を画し、同時に移民社会内部の中傷や差別を指摘することも忘れない。だがそうした批判が返す刀で、移民の現実を映す〈鏡〉たらんとする自身の文章もまた予断や偏見から自由ではないのだと、自らの愚かさと醜さへと向けられているところが潔い。それが本書をきわめて忘れがたく美しい書物にしている。
忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅 / 岡村 淳
忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅
  • 著者:岡村 淳
  • 出版社:港の人
  • 装丁:単行本(232ページ)
  • 発売日:2013-04-22
  • ISBN-10:489629260X
  • ISBN-13:978-4896292602
内容紹介:
ブラジルの知られざる日本人移民の人生を描いた記録文学の傑作!

ブラジル在住の記録映像作家・岡村淳が、土地なし農民運動のリーダー、広島で被爆し、在外被爆者問題で奔走した男性、70歳を過ぎて陶芸に打ち込んだ女性陶芸家など、ブラジルで逞しく、情熱的に生きる6人の日本人移民の人生をゆるみのない確かな筆致で描く。
長年著者と親交を深めている作家・星野智幸氏が「七人の移民」と題して本書に寄稿。
巻末には「岡村淳 自主制作作品フィルモグラフィー」を掲載。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2013年06月30日

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