書評
『百億の昼と千億の夜』(早川書房)
寄せてはかえし
小松左京『果しなき流れの果に』が来たら、次は自動的に光瀬龍『百億の昼と千億の夜』--というのが昭和のSFファンの常識というか、条件反射みたいなもんですね。初出は同じSFマガジン。『果しなき…』の連載が完結した翌月の1965年12月号からちょうど入れ替わりで連載が始まり、翌年8月号で完結。同じように〈日本SFシリーズ〉で単行本化ののち、73年にハヤカワJA文庫(のちのハヤカワ文庫JA)に入った。カバーは金森達。寄せてはかえし/寄せてはかえし/かえしては寄せる波の音は、何億年ものほとんど永劫にちかいむかしからこの世界をどよもしていた
……という冒頭は、日本SF史上いちばん有名な書き出しかもしれない。僕の年代(60年前後生まれ)のSFファンならたいがい(「祇園精舎の鐘の声」と同じように)この一節を暗唱できるはず。ミステリ作家の綾辻行人氏(大森と同学年)なんか、学生時代にやってたアマチュアバンドでこの書き出しに曲をつけて歌ってたとか。
77年には萩尾望都が漫画版を〈週刊少年チャンピオン〉に連載(翌年完結)、コミックスも出たので(現在は秋田文庫版もあり)、そちらで読んだという人も多いだろう。
『果しなき…』と同じく、『百億千億』も、悠久の昔からつづく、超越的な力との戦いを描く。相手は絶対者『シ』の命を受けた惑星開発委員会。かつてはアトランティスを滅ぼし、ナザレのイエスを操った彼らは、遠い未来で、宇宙のすべての生命を絶滅させようとしていた。シッタータ(釈迦)、あしゅらおう(阿修羅王)、おりおなえ(プラトン)は、『シ』の力に抗して、世界を滅亡から救おうとする。
なお、93年にハヤカワ文庫JAの1000番到達を記念して新装版が刊行されたさい、小説の末尾に冒頭部分のリフレインがつけ加えられ、新たに3行が加筆されている。ラストの印象がけっこう変わるので、むかし(93年より前に)読んだきりという人は、ぜひ新版(現行のカバーは萩尾望都)を手にとってみてほしい。
西日本新聞 2015年6月29日
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