書評

『闇の左手』(早川書房)

  • 2017/08/02
闇の左手 / アーシュラ・K.ル・グィン
闇の左手
  • 著者:アーシュラ・K.ル・グィン
  • 翻訳:小尾 芙佐
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(379ページ)
  • 発売日:1978-09-01
  • ISBN-10:415010252X
  • ISBN-13:978-4150102524
内容紹介:
〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕両性具有人の惑星、雪と氷に閉ざされたゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣されたゲンリー・アイは、理解を絶する住民の心理、風俗、習慣等様々な困難にぶつかる。やがて彼は奇怪な陰謀の渦中へと……エキゾチックで豊かなイメージを秀抜なストーリイテリングで展開する傑作長篇

両性具有社会

毎年夏になると、SF界最大のお祭り、日本SF大会が47都道府県のどこかで開催される。54回目を迎える今年の会場は鳥取県米子市なので、愛称は「米魂(こめこん)」(「こん」は「大会」を意味するコンベンションの略)。僕が初めて参加したSF大会は、東京・浅草で開かれた1980年のTOKON7だった。マスカレードと呼ばれるSF版の仮装大賞がその頃の目玉企画で、いまも鮮明に覚えているのは、照明を落としたステージにすたすた歩いてきた男性の一発芸。右手に持つ懐中電灯のスイッチを入れ、闇の中で反対の手を照らしておもむろに一言、「『闇の左手』」。

爆笑と喝采が満員の場内を揺るがしたのは言うまでもない。『闇の左手』(小尾芙佐訳、ハヤカワ文庫SF)は、SF大会参加者なら誰もが知っている名作だったし、アーシュラ・K・ル・グィンは当時もっとも有名な女性SF作家だった。なにしろ、1969年刊行の『闇の左手』は、世界の二大SF賞、ヒューゴー賞とネビュラ賞の長編部門2冠を独占。しかも、両賞とも、女性作家の長編が受賞したのはそれが初めてだったのである。この快挙を経て、1970年代には女性のSF作家が大躍進を遂げることになるが、ル・グィンは長くそのトップに君臨しつづけた。

『闇の左手』の舞台は、遥(はる)か昔に放棄された人類の植民惑星ゲセン。雪と氷に閉ざされ、〈冬〉と呼ばれるこの星では、人類の末裔(まつえい)が両性具有社会を形成していた。ゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣された人類同盟の使節ゲンリー・アイは、理解不能の心理、風俗、習慣など、さまざまな困難に直面。やがて奇怪な陰謀の渦に巻き込まれてゆく……。

《ハイニッシュ・ユニバース》と呼ばれる未来史シリーズに属する長編だが、ル・グィンは、作中にゲセンの民話や伝説を織り込み、文化人類学的な手法を駆使して、異星社会の歴史と文化をリアルに構築してゆく。後半の山場は命がけの冒険旅行。アイは、カルハイド王国の追放された元宰相エストラーベンとともに、真冬の大雪原を横断することに……。
闇の左手 / アーシュラ・K.ル・グィン
闇の左手
  • 著者:アーシュラ・K.ル・グィン
  • 翻訳:小尾 芙佐
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(379ページ)
  • 発売日:1978-09-01
  • ISBN-10:415010252X
  • ISBN-13:978-4150102524
内容紹介:
〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕両性具有人の惑星、雪と氷に閉ざされたゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣されたゲンリー・アイは、理解を絶する住民の心理、風俗、習慣等様々な困難にぶつかる。やがて彼は奇怪な陰謀の渦中へと……エキゾチックで豊かなイメージを秀抜なストーリイテリングで展開する傑作長篇

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年7月27日

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