書評

『愛はさだめ、さだめは死』(早川書房)

  • 2017/08/12
愛はさだめ、さだめは死  / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
愛はさだめ、さだめは死
  • 著者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(389ページ)
  • 発売日:1987-08-01
  • ISBN:4150107300
内容紹介:
自然と本能のまえにとまどう異星生物のライフサイクルを、斬新なスタイルで描き、1973年度ネビュラ賞に輝く表題作ほか、コンピュータによって他人の肉体とつながれた女の悲劇を通して、熾烈な未来社会をかいま見せ、1974年度ヒューゴー賞を獲得したサイバーパンクSFの先駆的作品「接続された女」、ユカタン半島に不時着した飛行機の乗客が体験した意外な事件を軸に、男女の性の落差を鋭くえぐった問題作「男たちの知らない女」など、つねにアメリカSF界の話題を独占し、注目をあつめつづけたティプトリーが、現代SFの頂点をきわめた華麗なる傑作中短篇全12篇を結集!

秘密の遊び場

短編SFの名手と言えば、1968年に彗星(すいせい)のごとくデビューし(同時に書いていた4編を投稿したところすべて採用されたので、どれが真の第1作かよくわからない)、SF界に伝説を残したジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの名前も外せない。覆面作家だったティプトリーが数々のSF賞を受賞して脚光を浴びた70年代は、女性の活躍が目立ちはじめた時代。前回紹介したスタージョンは、「有望な新人はみんな女性作家で、例外はティプトリーだけ」と述べたほど。

しかし77年、そのティプトリーの正体が、実はアリス・シェルドンという女性だと明らかになり、SF界に激震が走る。その10年後、71歳のアリスは、病気で寝たきりだった84歳の夫を射殺し、同じベッドの上でピストル自殺を遂げた。壮絶すぎる人生。幼少期は探検家の父と作家の母に連れられて世界を旅し、大戦中は写真解析士官としてペンタゴンの中枢で働いた。40歳代の後半になって大学に戻り、実験心理学の博士号を取得したころ彼女が発見した“秘密の遊び場”がSFだった。

1973年のネビュラ賞に輝く「愛はさだめ、さだめは死」(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SFの同名短編集に収録)は、人間がまったく出てこない異星生物SF。巨大な蜘蛛(くも)に似た語り手のモッガディートが、本能に抗(あらが)って愛に生きようとする姿を超絶技巧で鮮やかに描き出す。

同じ短編集の「接続された女」(浅倉久志訳)は、人生に絶望して自殺を図った醜いヒロインが、(いわば)アイドルのゴーストとして甦(よみがえ)る話。絶世の美少女(アンドロイド)のデルフィに神経を接続し、世界的な大人気アイドルとして大衆を魅了する。が、彼女が恋をしたとき、破局が……。サイバーパンクのさきがけとも言われるヒューゴー賞受賞作。

ちなみにこの短編集(原書77年刊)にはSF作家のロバート・シルヴァーバーグが序文を寄せ、ティプトリーが男性であることを論理的に“証明”している。のちに著者から「どうか気にしないで」と慰める手紙が来たという。
愛はさだめ、さだめは死  / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
愛はさだめ、さだめは死
  • 著者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(389ページ)
  • 発売日:1987-08-01
  • ISBN:4150107300
内容紹介:
自然と本能のまえにとまどう異星生物のライフサイクルを、斬新なスタイルで描き、1973年度ネビュラ賞に輝く表題作ほか、コンピュータによって他人の肉体とつながれた女の悲劇を通して、熾烈な未来社会をかいま見せ、1974年度ヒューゴー賞を獲得したサイバーパンクSFの先駆的作品「接続された女」、ユカタン半島に不時着した飛行機の乗客が体験した意外な事件を軸に、男女の性の落差を鋭くえぐった問題作「男たちの知らない女」など、つねにアメリカSF界の話題を独占し、注目をあつめつづけたティプトリーが、現代SFの頂点をきわめた華麗なる傑作中短篇全12篇を結集!

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年8月10日

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