書評

『不思議のひと触れ』(河出書房新社)

  • 2017/08/11
不思議のひと触れ  / シオドア・スタージョン
不思議のひと触れ
  • 著者:シオドア・スタージョン
  • 翻訳:大森 望
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(420ページ)
  • 発売日:2009-08-04
  • ISBN-10:4309463223
  • ISBN-13:978-4309463223
内容紹介:
神話的な輝きを放つ、"アメリカ文学史上最高の短篇作家"シオドア・スタージョン。その魔術的ともキャビアの味とも評される名短篇をここに集成。どこにでもいる平凡な人間に、不思議のひと触れが加わると?-表題作をはじめ、デビュー作他、全十篇。

”すこしふしぎ”の魔法

きのう紹介したケン・リュウ「紙の動物園」のような、(藤子・F・不二雄が命名した)“すこしふしぎ”系の短編は、往年のアメリカSFにも珍しくない。そうした短編の名手が、超能力SFの古典『人間以上』で知られるシオドア・スタージョン。「あらゆるものの90パーセントはクズである」というスタージョンの法則でも有名ですね。もっとも、ご当人によると、それは法則じゃなくて啓示で、本来のスタージョンの法則は、「どんなこともつねに無条件でそうだとは限らない」だとか。

それはともかく、スタージョンは、ごくふつうの平凡な人間に訪れる“すこしふしぎ”な瞬間を「不思議のひと触れ」と呼び、その体験によって変化する人間の姿を、独特の語り口でリアルに描いた。自分で編纂(へんさん)した短編集で恐縮ですが、河出書房新社《奇想コレクション》から出た『不思議のひと触れ』(現在は河出文庫)は、そうした短編を中心に全10編を収録する。

表題作(別題「奇妙な触合い」)は、人魚の男を待つ人間の女と、人魚の女を待つ人間の男が、海岸近くの岩礁で出会う話。ふつうならコントにしかならないバカ話なのに、スタージョンの魔法の筆のひと触れが、それを運命的な奇跡のラブストーリーに変える。

巻末の「孤独の円盤」も、やはり海辺で男女が奇妙な出会いを果たす場面で始まる。主役は、17歳のとき、小さな空飛ぶ円盤に接触された女性。衆人環視のセントラルパークで、てのひらサイズの金色の円盤が飛来し、頭上50センチほどのところに浮かんだ。やがて円盤は落下し、彼女のひたいにぶつかる。円盤はひとつのメッセージを彼女の脳に伝えたが、彼女はそれを誰にも話さなかった。なぜなら――と、こちらはもっと無茶(むちゃ)な話だが、にもかかわらず、孤独な人間の魂の叫びが痛切に胸に迫る。

「もうひとりのシーリア」は、都筑道夫が怪奇小説のオールタイムベスト3に挙げた名作。他人の部屋に忍び込んで私生活を覗(のぞ)き見するのが趣味の男が、ある日、とんでもない光景を目にすることに……。
不思議のひと触れ  / シオドア・スタージョン
不思議のひと触れ
  • 著者:シオドア・スタージョン
  • 翻訳:大森 望
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(420ページ)
  • 発売日:2009-08-04
  • ISBN-10:4309463223
  • ISBN-13:978-4309463223
内容紹介:
神話的な輝きを放つ、"アメリカ文学史上最高の短篇作家"シオドア・スタージョン。その魔術的ともキャビアの味とも評される名短篇をここに集成。どこにでもいる平凡な人間に、不思議のひと触れが加わると?-表題作をはじめ、デビュー作他、全十篇。

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年8月7日

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