前書き

『ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集』(原書房)

  • 2020/09/17
ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集 / アラン・リー
ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集
  • 著者:アラン・リー
  • 翻訳:山本 史郎
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2020-08-25
  • ISBN-10:456205784X
  • ISBN-13:978-4562057849
内容紹介:
『ホビット』をはじめとするトールキン作品の挿絵を手がけ、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の製作にもかかわった、現代を代表するファンタジー画家であるアラン・リーが、「ホビットの世界」のイメージをあますところなく表現した傑作画集!
『指輪物語』や『ホビット』をはじめとするトールキンの挿絵を手がけ、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の製作にもかかわった画家、アラン・リー。
現代を代表するファンタジー画家は何を見て、何を感じて絵を描いてきたのだろうか。
イマジネーションの秘密を知るうえで貴重な助けとなるイメージ画と画家自身の言葉を収録した傑作画集の前書きを特別に公開する。

『指輪物語』『ホビット』の絵を私が描くようになるまで


わたしはまず『指輪物語』の3巻本を読み、そのあとで『ホビット』へと進んだ。そのとき17歳、美術学校を休んでいるときのことだった。
その後これらの本のイラストを描き、映画の仕事もしたが、やはり順序は同じだった。ある意味では、まず『ホビット』に出会って、その後でミドルアースの世界にどっぷりとつかって冒険を続けたほうが楽しかったかもしれない。
ほろびの山の斜面を降りてきたばかりの時点で、『ホビット』のさまざまの出来事がのちにどんな意味合いをもつことになるかを知っている――それも『ホビット』を執筆したときのトールキン以上に知っているというのは、なんとも奇妙だ。
もちろんトールキンは、『指輪物語』が出版された後で、さかのぼって『ホビット』に修正をくわえているので、つなぎ目はなめらかではあるが。

先を知っているから『ホビット』はワクワクしなかったとか、美しくなかったというわけではない。
何が起きるかうすうす分かっていても、出来事の展開は魔法のように感じられる。物語の流れに魅せられ、目に浮かんでくる世界がとびきりすばらしいからだ。

わたしにとってミドルアースはそれだけが独立して存在するのではない。
子どものわたしは図書館に行って、神話や伝説のオクスフォード版アンソロジーや、アーサー王、ケルト神話、北欧神話の再話物語を次々と発見していったが、ミドルアースはそうして親しんだお伽話や神話の世界と分かちがたく繋っている。そしてそれらを読んだときにわたしをとりまいていた風景とも結びついている。
これがまさに物語の魔術というものだ。
あらたな物語を聞いたり読んだりするとき、われわれは自分自身の中にたくわえた過去の体験を素材として、イメージを組み立てるのである。

いつかトールキンの作品の挿絵を描いてやろうと、最初からたくらんでいたわけではない。そんなことはおそれおおかった。
1970年にイラストレーターとして仕事を始めたときには、とても自分の手のとどくことだとは思わなかった。だが、なんとか神話や伝説とかかわりをもちたいと感じている中で、次々とすばらしい人たちと出会うことによって、それが実現することになった。
はじめて一冊の本を委託してくれたのは、パン出版の美術主任のデイヴィッド・ラーキンだった。そして彼を通じて、バランティン夫妻、すなわちイアンとベティというすばらしい2人に出会い(バランティン社は『指輪物語』の正式なアメリカ版の版元だ)、『妖精と城』を出版してもらい、さらにそのイギリス版がアンウィン・ハイマン社によって出版された。
そしてこの本の中でミドルアースの建物をいくつか描いていたが、それを同社の編集者であるジェイン・ジョンソンがトールキンカレンダーに採用してくれた。そればかりか、『指輪物語』の挿絵を描いてみてはどうかと言ってくれた。
そしてこれが好評だったので、次に『ホビット』の挿絵へと進み、さらにクリストファー・トールキンとトールキン財団の後援によってミドルアースの第一紀の3つの「偉大な物語」の挿絵を手がけることができた。
過去20年のあいだに出版した本は、ハーパーコリンズ社の忍耐づよく、洞察に満ちたクリス・スミスとデイヴィッド・ブローンによって提案されたものばかりだ。

こうして縁に縁がつながって、ニュージーランドのピーター・ジャクソンとフラン・ウォルシュという二人のすぐれた映画製作者との仕事、そして肝胆あい照らす友であるジョン・ハウとの楽しい共同作業へとつながっていった。
いうまでもなく、どれも偶然の出会いではない。
気楽にマイペースでいながら、いつも冒険との出会いには目を光らせていること。そうすれば、たとえあなたがなかなかつかまらない人だったとしても、うまくいくものだ。

[書き手]アラン・リー(高い評価を受けている『指輪物語』のトールキン生誕百年記念エディションと、『ホビット』のダイアモンドエディションに挿絵を描いた画家。グラフィックデザインと、ケルト・北欧神話の描写を学び、数多くの物語に挿絵を描いてきた。1997年からはピーター・ジャクソン監督の映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のために、コンセプトデザイナーおよびセット装飾の主任として参加し、2004年には「王の帰還」によってアカデミー美術賞を授与されている映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のために、コンセプトデザイナーおよびセット装飾の主任として参加し、2004年には「王の帰還」によってアカデミー美術賞を授与された。)(山本史郎訳)
ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集 / アラン・リー
ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集
  • 著者:アラン・リー
  • 翻訳:山本 史郎
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2020-08-25
  • ISBN-10:456205784X
  • ISBN-13:978-4562057849
内容紹介:
『ホビット』をはじめとするトールキン作品の挿絵を手がけ、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の製作にもかかわった、現代を代表するファンタジー画家であるアラン・リーが、「ホビットの世界」のイメージをあますところなく表現した傑作画集!

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