書評
『1年ネコ組のイヌ』(集英社)
しあわせは種族を超えて
ぼくはイヌだ。あの漱石さんにならっていえば、わが輩はイヌである、ということになる。その上ことしはイヌ年、ぼくにとっては記念すべきあたり年というわけさ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1994年)。けれども奇妙なことに、そのイヌのぼくがいつのまにかネコの仲間に入って、ネコ社会の一員になってしまったんだ。ぼくは二年前、長嶺ヤス子のおばさんに拾われて、その家に連れていかれた。驚いたの何の、そこはあたり一面ネコだらけ。このおばさんは不思議な人で、ネコ百匹と共同生活をして世間を騒がした人なんだが、本職はダンサーなんだ。若い身空でスペインに渡り、フラメンコを踊ってまたたくうちにスターになった。八四年には、ニューヨークのカーネギーホールで「曼陀羅」を上演し青い眼玉たちの度肝を抜いたんだぜ。
その長嶺のおばさんがもう十年以上も前に日本に帰ってきたとき、車で一匹のネコをひき殺してしまった。それが縁で野良ネコや捨てネコを自分の家族にしていったというわけなんだが、もう一つこの人には凄(すご)い絵の才能がある。毎年のように個展を開いているほどで、そのネコやイヌを主人公にしたメルヘン画をみていると、この人が根っからわれわれ動物の世界に近い人だってことがわかるんだ、生はんかな動物愛護者なんてものではないんだよね。
そんなこんなでおばさんは数年前に「消えなかったシャボン玉」という画集を出版したんだが、こんどのはそれにつづく第二弾というわけさ。はじめの第一作は黒人と白人のラブ・ロマンスに人種差別の乗り越えという主題を盛りこんだものだったけど、今度のはネコたちの仲間となったイヌが、ネコのように育ち、ネコを愛しネコに愛されて、最後に幸福をつかみとるというお話なんだ。そのモデルにぼくがなったというわけさ。あなた方人間の世界では性差別とか同性愛とかカンカンガクガクやっているようだけど、どうだろう、ぼくたち「一年ネコ組」の方がもっと進んでいると思うよ。
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