自著解説
『美麗島プリズム紀行』(集英社)
2015年に『美麗島紀行』上梓後も、台湾への旅を続け、各地に残る日本統治時代の建築物を訪ね、当時を知る人たちと直接話し、台湾の複雑な成り立ちに深く分け入った『美麗島プリズム紀行』、旅を通して感じた、驚きと畏れとは?
近くて遠い、台湾の本当の姿を求めて
まだ台湾の本当の姿を見られていないのではないかという思いと、それから、これは日本でも同じですが、戦争体験をお持ちの方にお話を伺えるギリギリの機会なので、可能な限りそうした方にお目にかかっておきたいという気持ちがありました。もう一つ、台湾は本当に変化が速い。私が前著の取材を始めたのは2013年。それから7~8年の間に、ずいぶん変わりました。その変化を書きたいと思ったのです。
台湾の人はすぐに飛びついてすぐに飽きる。とくに台北はそうで、行くたびに風景が変わっていきます。個性的なマンションを建てているのは日本の熊谷組です。台湾の人たちの日本のゼネコンへの信頼はものすごくて、ステータスになるようなんですね。台北101という、完成当初は世界一の高さを誇ったビルの施工も熊谷組です。一方、日本統治時代に日本人の手によって建てられた建築物も台湾にはたくさん残っていて、この本では、そうした建築物や街並みをいろいろと巡りました。
今年1月の総統選挙は台南で見ました。台湾の選挙はお祭りで、今回、投票率は74・9パーセントという、日本人からしたらうらやましくなるほどの高さ。各陣営、足の引っ張り合いなど、えげつないこともやるようですが、面白いのは、勝っても負けても終わったらみんなケロッとしてること。4年後またやろうぜ、みたいな感じがある。争点は政治信条だけではなく宗教が絡んだりと複雑ですが、日本統治時代、反体制派が弾圧された白色テロの時代など、苦難の時代を経て民主主義を勝ち取り、今こうやって選挙をしているわけですから、政府に対しては、自分たちが選んだ政権だという強い意識を持っています。
台湾の人は信仰心が篤く、迷信深いところもありますね。ただ旧暦が意識されているのは韓国もそうですし、日本でも沖縄などは、昔から受け継がれたものや季節を大事にしていますよね。私は日本も、生活に根ざした行事や風習などは、旧暦を守ってもいいのではないかと思っています。
台湾の人口のうち、およそ13パーセントを占めると言われる外省人(戦後、大陸から台湾へ移り住んだ人々とその子孫)の話を聞いておきたいと思ったものの、実際に家を訪れて、我ながら無鉄砲すぎたかなと思いました。日本人を何人も殺した話とか、通訳を介して聞いても鬼気迫る感じがありましたし、最後、握手しましたが、すごい握力で……怖かった。でも私は、行っちゃダメといわれるほうに行ってしまう性格。とくに今回は、前著と比べて、細かく予定を立てないで歩きまわるという寄り道の多い旅をしたんです。そのおかげで、思いがけない人に出会う幸運もあったし、その反対もありました(笑)。
一つ残念だったのは、コロナによって、少数民族の取材に行けなくなったこと。パイワン族の村の話など、この本に書けたこともありますが、原住民族についてもっと知りたかったですね。
また行けるようになったら、大都会の台北もいいけれど、台北から離れると、より台湾の多様性を感じられると思います。台湾で唯一、古蹟に指定されている現役の小学校がある台中清水区や、台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹などは面白いのではないでしょうか。この本では観光ではなかなか行けないような場所も歩いていますので、気軽に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
[書き手:乃南アサ]
近くて遠い、台湾の本当の姿を求めて
歴史と人に寄り添う台湾紀行
まだ台湾の本当の姿を見られていないのではないかという思いと、それから、これは日本でも同じですが、戦争体験をお持ちの方にお話を伺えるギリギリの機会なので、可能な限りそうした方にお目にかかっておきたいという気持ちがありました。もう一つ、台湾は本当に変化が速い。私が前著の取材を始めたのは2013年。それから7~8年の間に、ずいぶん変わりました。その変化を書きたいと思ったのです。台湾の人はすぐに飛びついてすぐに飽きる。とくに台北はそうで、行くたびに風景が変わっていきます。個性的なマンションを建てているのは日本の熊谷組です。台湾の人たちの日本のゼネコンへの信頼はものすごくて、ステータスになるようなんですね。台北101という、完成当初は世界一の高さを誇ったビルの施工も熊谷組です。一方、日本統治時代に日本人の手によって建てられた建築物も台湾にはたくさん残っていて、この本では、そうした建築物や街並みをいろいろと巡りました。
今年1月の総統選挙は台南で見ました。台湾の選挙はお祭りで、今回、投票率は74・9パーセントという、日本人からしたらうらやましくなるほどの高さ。各陣営、足の引っ張り合いなど、えげつないこともやるようですが、面白いのは、勝っても負けても終わったらみんなケロッとしてること。4年後またやろうぜ、みたいな感じがある。争点は政治信条だけではなく宗教が絡んだりと複雑ですが、日本統治時代、反体制派が弾圧された白色テロの時代など、苦難の時代を経て民主主義を勝ち取り、今こうやって選挙をしているわけですから、政府に対しては、自分たちが選んだ政権だという強い意識を持っています。
台湾の人は信仰心が篤く、迷信深いところもありますね。ただ旧暦が意識されているのは韓国もそうですし、日本でも沖縄などは、昔から受け継がれたものや季節を大事にしていますよね。私は日本も、生活に根ざした行事や風習などは、旧暦を守ってもいいのではないかと思っています。
台湾の人口のうち、およそ13パーセントを占めると言われる外省人(戦後、大陸から台湾へ移り住んだ人々とその子孫)の話を聞いておきたいと思ったものの、実際に家を訪れて、我ながら無鉄砲すぎたかなと思いました。日本人を何人も殺した話とか、通訳を介して聞いても鬼気迫る感じがありましたし、最後、握手しましたが、すごい握力で……怖かった。でも私は、行っちゃダメといわれるほうに行ってしまう性格。とくに今回は、前著と比べて、細かく予定を立てないで歩きまわるという寄り道の多い旅をしたんです。そのおかげで、思いがけない人に出会う幸運もあったし、その反対もありました(笑)。
一つ残念だったのは、コロナによって、少数民族の取材に行けなくなったこと。パイワン族の村の話など、この本に書けたこともありますが、原住民族についてもっと知りたかったですね。
また行けるようになったら、大都会の台北もいいけれど、台北から離れると、より台湾の多様性を感じられると思います。台湾で唯一、古蹟に指定されている現役の小学校がある台中清水区や、台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹などは面白いのではないでしょうか。この本では観光ではなかなか行けないような場所も歩いていますので、気軽に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
[書き手:乃南アサ]
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