前書き

『生活道具の文化誌:日用品から大型調度品まで』(原書房)

  • 2021/02/16
生活道具の文化誌:日用品から大型調度品まで / エイミー・アザリート
生活道具の文化誌:日用品から大型調度品まで
  • 著者:エイミー・アザリート
  • 翻訳:大間知 知子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(365ページ)
  • 発売日:2021-01-23
  • ISBN-10:4562058943
  • ISBN-13:978-4562058945
内容紹介:
家庭にあるさまざまな「家具・インテリア」。その歴史とエピソードを味わいあるイラストともに紹介した「モノの歴史」。
椅子、スプーン、鏡、花瓶……お気に入りの家具や道具は誰にでもあるものでしょう。
家庭にあるさまざまな「家具・インテリア」。その歴史とエピソードを味わいあるイラストともに紹介した『生活道具の文化誌――日用品から大型調度品まで』は、箸や机、枕から暖炉にソファー、壁紙まで、60あまりの「家にあるモノ」を興味深いコラムとともに語る、楽しい本です。
家にいる時間が長い今、ちょっと気分を変えて、ふだんは意識しない家具や道具について考えてみる――すてきな時間をすごせるかもしれません。本書の序文を公開します。

お気に入りの家具には物語がある

私が今この原稿を書いている机、座っている椅子、部屋を照らすランプ―どんな家具にも使う人の思い出が染みついている。そして家具そのものにも、過去から現在につながる歴史が秘められている。
たとえば椅子はどうだろうか。イタリア北部のキアヴァリで生産される椅子や、フランスの家具デザイナーがデザインしたトリックスの椅子のように、生産地やデザイナーがはっきりしている椅子もある。ウィンザーチェアやロッキングチェアのように、この日、このデザイナーによって作られたと明確に言えなくても、そのタイプの椅子がいつ頃から使われているのかよく知られているものもある。
しかし、世界最初の椅子がいつ作られたのかはまったくわからない。机や皿といったありふれた道具の多くは、この世に生み出された正確な瞬間を突き止めるのはまず不可能だし、そんな話をしても正直言ってあまり面白くないだろう。本書『生活道具の文化誌』では、私たちが慣れ親しんでいる家庭の道具が今の形に進化していく歴史の中から、秘められたドラマを探し出して読者のみなさんにご紹介したいと思う。

ほとんどの家具は必要に迫られて生まれてきた。横たわる場所、座る所、料理するための容器、飲むための器、闇を遠ざける道具がほしい。そんな欲求があらゆる道具の原点にある。
だからといって、家具が常に実用一点張りだったわけではない。人は美しいものに引き寄せられる傾向があるようだ。
食べる物と住む場所というふたつの基本的欲求が満たされると、住んでいる空間を飾りたいという欲求を満たすゆとりが生まれた。これまで実用品で済ませていたものに、贅沢品が用いられるようになった。
クリスタルガラスの脚付きグラスは、それを生産するために時間と費用がかかっているからこそ価値がある。城の石壁の寒々しさを和らげるには簡素な織物があれば十分だが、色鮮やかなタペストリーをかけておけば、所有者にお金の余裕があるのは一目でわかる。

18世紀に産業革命が起きるまで、現代の私たちが考える装飾芸術――機能的であると同時に、生活に美的快感をもたらすために作られた物――は、どんな国に暮らしていようと貴族か富裕層でなければ手に入れられなかった。現代ならどんな家庭にもある色とりどりの枕、寝心地のいいマットレス、食器類、布張りの椅子は、かつては上流階級にしか手が届かなかったのだ。

羽毛でふんわりふくらんだ枕や、クッションのきいた寝椅子、ロウソクといったものがまだ日常生活になかった時代に、石や木の枕、背もたれの硬い椅子、いつまでも続く暗くて寒い昼と夜に耐えていた祖先には誰しも感服せざるを得ないだろう。
私たちの祖父母がノートパソコンを想像すらできなかったように、私たちが何の気なしに使っているもの、たとえばナプキンやガラス製品、時計などが昔は想像さえできなかったという事実に、ときには想いをはせるのもいいだろう。

温度調節され、快適な家具で埋め尽くされ、好きなように点けたり消したりできる明かりがある現代の家は、昔ならたとえ王侯貴族であっても夢にも思わない贅沢だった。
私たちが当たり前のように使っているもの(中にはそうでないものもあるが)の歴史をたどるために、この本ではしばしば過去へ旅することになるだろう。
たびたびフランス人が登場するので驚く人がいるかもしれない。エドマンド・ホワイトが『パリ 遊歩者のまなざし』で書いているように、「フランス人は贅沢という観念を作り出し、そのためになら喜んでその代償を払ってきた」(柿沼瑛子訳)のである。私たちは中国、日本、エジプトへも出かけて、そこでさまざまなものと巡り合うだろう。

さあ、歴史を巡る旅に出よう。
私たちの家庭にある道具に秘められた、複雑で多彩で驚くような物語が待っているだろう。
この本を閉じたとき、日々の暮らしの中にあるありふれた道具への新鮮な驚きや感動が生まれるよう願っている。
次に友人と食事を共にするときに話の種にして楽しんでいただければ、こんなにうれしいことはない。

[書き手]エイミー・アザリート(パーソンズ美術大学で装飾芸術とデザイン史の学位を取得、さまざまな大学や学会で講義を行ってきたデザイン史の専門家。『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』にもしばしば寄稿。また企業に対してブランド構築のコンサルティングも行っている。カリフォルニア州在住)(大間知知子訳)
生活道具の文化誌:日用品から大型調度品まで / エイミー・アザリート
生活道具の文化誌:日用品から大型調度品まで
  • 著者:エイミー・アザリート
  • 翻訳:大間知 知子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(365ページ)
  • 発売日:2021-01-23
  • ISBN-10:4562058943
  • ISBN-13:978-4562058945
内容紹介:
家庭にあるさまざまな「家具・インテリア」。その歴史とエピソードを味わいあるイラストともに紹介した「モノの歴史」。

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