書評

『中国の旅』(朝日新聞出版)

  • 2023/12/11
中国の旅 / 本多 勝一
中国の旅
  • 著者:本多 勝一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(313ページ)
  • 発売日:1981-12-01
  • ISBN-10:4022608056
  • ISBN-13:978-4022608055
内容紹介:
十五年戦争中、日本軍が中国で行ったさまざまな非人道的行為を、被害者たちの証言から再現した古典的ルポ。

日本軍の残虐行為を掘り起こす

だいぶ前に日中戦争中の皆殺し作戦の実態をバクロした「三光」という本が出版され、話題をよんだことがある。これは撫順収容所にいた日本人戦犯の告白を中国側が整理した資料の一部だったが、右翼の脅迫で絶版となった。その後、別の出版社から刊行されたようだが、まだ日本人の立場からする自主的な作業はこれまで行われなかった。本多勝一はその問題に最初のクワを入れた。

彼は昨年の六月から七月へかけておよそ四十日にわたり中国を旅行し、東北地方(旧満州)をはじめ北京、南京、上海等で取材したメモをもとに、戦争中の中国での日本軍の残虐行為をまとめている。

虐殺事件の行われた現場をたずね、被害者の声を聞き、その事実を直接語らせるといった方法をとったのが、このルポである。

たとえば藩陽市大東区にある一つの小学校の前身は、かつて「思想輔導矯正院」とよばれた監獄だった。一九四四年に開かれて日本の敗戦までの間に二千人を越える中国人が収容され、つぎつぎと殺されていった。思想犯、経済犯などの名目で送りこまれた中国人のほとんどは、ロクな食物も与えられず、発病し、重病人は庭の片隅にほうりだされて「処理」されていった。しかも三人集って話していたことで思想犯とされ、コメを食べていたために経済犯としてつかまったといった人々が大部分で、矯正院とは名ばかりの死の監獄だった。

生体解剖や人体実験も行われ、実験で死んだ野ネズミの霊のために追悼碑が建てられることはあっても、犠牲となった中国人は遺体のゆくえもわからないままにうやむやになった例が多い。

撫順近くの平頂山では、抗日ゲリラと通じているという理由で、約四百世帯、三千人あまりの住民が皆殺しにされた。村人は崖下にかりあつめられ、殺されたあと石油で焼かれ、ダイナマイトで崖をくずしてその死体は埋められたという。今でもその現場からは犠牲者の骨が、とくに捜さなくても発見されるそうである。

当時十二歳だった韓樹林さんは、父親の死体の下にひそんでいて助かり、十一歳だった趙樹林さんは母の死体の下で流れおちる血を浴びながら生きのびた。肉親を殺され、家を焼かれ、かろうじて生残った子どもたちも、その日から乞食となって放浪しなければならなかった。

さらに万人坑ではアウシュビッツ以上の悲惨な光景がくりひろげられた。藩陽と大連(旅大)のほぼ中間にある大石橋のマグネサイト鉱山では、日本が経営していたころ三カ所の万人坑ができた。

中国各地からだまされて連れてこられた人々や、ドレイ狩り同様に強制連行された労働者は、重労働にかりたてられ、衰弱して死んでいった。万人坑には死体だけでなく、働けなくなった者も生きたまま捨てられた。万を越す中国人労働者が万人坑のひとつひとつにガイコツの山となって埋められている。

南京大虐殺の被害者たちの証言も、目をおおいたくなるようなものがある。しかし日本では百人斬りのレコードをつくった将校たちの話が、当時は誇らしげにマスコミの話題となっていたのだ。私たちはこの歴史の傷痕を凝視しなければならない。そして日本の軍国主義復活にたいする中国民衆の警戒が、実感にもとづくものであることを知る必要がある。
中国の旅 / 本多 勝一
中国の旅
  • 著者:本多 勝一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(313ページ)
  • 発売日:1981-12-01
  • ISBN-10:4022608056
  • ISBN-13:978-4022608055
内容紹介:
十五年戦争中、日本軍が中国で行ったさまざまな非人道的行為を、被害者たちの証言から再現した古典的ルポ。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 1972年5月5日

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