書評

『FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち』(中央公論社)

  • 2023/02/16
FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち / ハーバート・ミットガング
FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち
  • 著者:ハーバート・ミットガング
  • 翻訳:岸本 完司
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:単行本(337ページ)
  • 発売日:1994-08-01
  • ISBN-10:4120023478
  • ISBN-13:978-4120023477
内容紹介:
米国情報機関による文化人への諜報活動の全記録。すべての作家・詩人・劇作家・美術家・漫画家はスパイされていた。50名を超える一流文化人への憶断と偏見に満ちた調査ファイル。

好ましくない人物を調査

アメリカは、自らが世界の警察官として振る舞う根拠を、デモクラシーと人権においている。先ごろのハイチの軍事政権への介入など、正義の行使として位置づけられるのだ。日本は自衛隊を海外へ派遣するのにも、そういうタテマエを持たないからつねに戸惑ってしまう。だがアメリカの正義は必ずしもきれいごとでなく、それどころか不気味な怖さを秘めている。本書が示す事実は、充分に留意しておいたほうがよいだろう。日本がGHQの支配下にあったころ新聞や雑誌や放送は徹底的に検閲されたが、タテマエとは別個にそうしたノウハウを蓄積しているからである。

FBI(連邦捜査局)は、小説家、ジャーナリスト、劇作家、アーティスト、学者らをターゲットに、彼らの基準で作成した“好ましくないアメリカ人”の詳細なファイルをつくっていた。フォークナー、ヘミングウェイ、サローヤン、スタインベックなど誰もが知っている有名作家たちも行動を監視されていた。トルーマン・カポーティのような非政治的な作家やガルブレイス教授のような保守的な学者さえリストに載せられていた。

一九七二年に亡くなるまで四十八年間もFBIに君臨したフーヴァー長官のタテマエは、“アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ”を守るため、共産主義の侵入を防ぎ、ルーズヴェルト時代の容共的なリベラリズムを一掃しなければならない、であった。

著者はベテラン出版ジャーナリストで、情報公開法にもとづいてこれらの秘密ファイルを入手したわけだが、請求した文書の一部は未だに公開されていないか、または墨で塗られていたという。FBIの調査が現在も継続されている可能性を臭わせている。

著者の懸念は「政府の政策を暴き出したり、潤沢な訴訟費用を持つ大企業を敵に回したりしかねぬ調査報道が、出版社に事前に牙(きば)を抜かれたり、あるいは完全に忌避されるのではないか」という点にある。岸本完司訳。
FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち / ハーバート・ミットガング
FBIの危険なファイル―狙われた文学者たち
  • 著者:ハーバート・ミットガング
  • 翻訳:岸本 完司
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:単行本(337ページ)
  • 発売日:1994-08-01
  • ISBN-10:4120023478
  • ISBN-13:978-4120023477
内容紹介:
米国情報機関による文化人への諜報活動の全記録。すべての作家・詩人・劇作家・美術家・漫画家はスパイされていた。50名を超える一流文化人への憶断と偏見に満ちた調査ファイル。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1994年9月26日

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