自著解説

『キリシタン世紀の日本』(八木書店出版部)

  • 2021/09/21
キリシタン世紀の日本 / C・R・ボクサー
キリシタン世紀の日本
  • 著者:C・R・ボクサー
  • 翻訳:高瀬 弘一郎
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(728ページ)
  • 発売日:2021-07-02
  • ISBN-10:4840622388
  • ISBN-13:978-4840622387
内容紹介:
葡・西・蘭・仏・日など諸国語の膨大な原史料と研究を読み解き、大航海時代の歴史を広い視野から透徹した名著が、日欧交渉史の泰斗による日本語翻訳版で初刊行!〔原著〕Charles Ralph Boxer,… もっと読む
葡・西・蘭・仏・日など諸国語の膨大な原史料と研究を読み解き、大航海時代の歴史を広い視野から透徹した名著が、日欧交渉史の泰斗による日本語翻訳版で初刊行!

〔原著〕Charles Ralph Boxer,The Christian Century in Japan 1549-1650, University of California Press,(1951) second printing,corrected,1967.

●原史料の読解と深い学識を備えた英国人・ボクサーの名著
各地の文書館が所蔵するイエズス会原史料を渉猟し、高い教養と当該時代に関する深い学識を備えた、英国人研究者のチャールズ・ラルフ・ボクサー(1904-2000)。1951年に初版が刊行されてから70年が経過した今日でも必読すべき本書、本邦初の日本語訳で公刊。

●キリシタン時代の日本を世界史的な視野から俯瞰
カトリック教会関係者やカトリック側から歴史を見る外国人研究者が断然優位に立つ中で、著者ボクサーは、キリシタン時代の日本を世界史的視野から俯瞰し、大航海時代の日本におけるカトリック布教を、通史的に著述し、極めて有意義な史観を有する。

●国内史的、カトリック的思考を省察
日本史上初めて価値観を異にする諸外国との関係、カトリックとの関係が、重要な史的要因となるキリシタン時代。キリスト教徒ではあるが非カトリックの学識深いイギリス人ボクサーの歴史に対する見方や解釈は、これまでの国内史的、カトリック的思考を省察するきっかけとなる。そうした中、キリシタン布教は大航海時代の所産であることを明確に示す。

●キリシタン交渉史の第一人者による翻訳と解説
訳者の高瀬弘一郎は、研究書『新訂増補 キリシタン時代対外関係の研究』や史料集『モンスーン文書と日本―十七世紀ポルトガル公文書集―』(いずれも八木書店刊)などを著したキリシタン交渉史の第一人者。本書の末尾には、訳者による解説と索引を付す。
キリシタンが日本で布教活動を活発に行い、日本文化に強い影響を与えた戦国時代。イギリス人研究者のC・R・ボクサーが戦国時代のキリシタン史を叙述した『キリシタン世紀の日本』(初版1951年)が、日欧交渉史の泰斗により70年のときを経て日本語に翻訳し刊行された。なぜいま翻訳本が刊行されたのか。著者ボクサーの生涯を振り返り、その意義を考える。


尋常ならざる足跡

このたび刊行した「『キリシタン世紀の日本』の原著はCharles Ralph Boxer,The Christian Century in Japan 1549-1650,Berkeley(1951) second printing,corrected,1967である。初版から70年経過した。この間、本書邦訳の噂を幾度か耳にした。原著を読んだ者の間でその重要性の認識が共有されても、結局翻訳は本訳書まで実現しなかった。

私の学生時代を振り返ると、ボクサー(1904-2000年)は現に学界を牽引する偉大な歴史家であった。新著が出版されれば直ぐに求め、その機会があれば講莚に列なった。真先に学び、咀嚼吸収すべき学者だと思っていた。没後彼の伝記がいくつか作られた。中でもDauril Alden,Charles R.Boxer,An Uncommon Life,Soldier,Historian,Teacher, Collector,Traveller,2001は600頁を超える大冊である。著者オールデンは大航海時代のイエズス会布教に関する大部な研究書があり、ボクサー伝を作成するのに相応しい学者であろうが、彼はボクサーの生涯を語るに、軍人・歴史家・教師・蒐集家・旅行家としての足跡を論じている。その人物の大きさが浮き彫りになるが、私はさらにそこに「教養人」を追加したい。まことに「尋常ならざるUncommon」足跡を印した人物である。

 

ボクサーの業績

ボクサーは英国の士官学校出身で、陸軍軍人を経て大学の教師になった異色の歴史学者である。1930年、彼が26歳頃であるが語学将校として日本に赴任した。1935年に日本語による情報将校として香港に駐在し、1942年香港が日本軍の占領下に入ったため捕虜となり1945年終戦、46年まで極東委員会の一員として日本に滞在した。同年イギリスに帰国し、翌1947年ロンドン大学キングス・カレッジの教授に就任、1967年まで勤めた。その後インディアナ大学を経て、イェール大学教授になり、1972年68歳でそこを定年退職した。つまりキングス・カレッジ教授になるまでの軍務に就いている期間にすでに、大きな研究実績を挙げていたわけである。20世紀最大の個人文庫と謳われた彼の蔵書は、インディアナ大学のリリー図書館に収められた。

 

70年間で335篇に上る著書・論文

彼は1926年に最初の論文を発表し、最後の論文は1996年であった。この70年間に発表した著作は全部で335篇に上る。その多くは、大航海時代におけるアフリカ・インディア・極東からさらにブラジルに及ぶ広域なポルトガル領・ポルトガル圏に関する歴史研究、ポルトガルと共に同時代を牽引したオランダ人の活動についての研究である。論文を別にして著書だけに限ると、日本に関する著作は、本原著およびThe Great Ship from Amacon,Annals of Macao and Old Japan Trade 1555-1640,Lisbon,1959の2冊が主なものである。その内本書は初版が1951年であるから、キングス・カレッジの教授になって4年後、47歳頃の著作であった。その8年後に出版された上記『マカオからの大船』は、マカオ・長崎間の通交と貿易に関する編年的記述に的を絞っている。本書同様、是非とも邦訳すべき研究書である。

 

諸外国語の原史料を読解し、世界史上にキリシタンを位置づける

それに対し『キリシタン世紀の日本』は、上記の如く広域を研究対象とする著者が、その広い視圏からキリシタン史を通史的に記述したものである。しかもそれは、ポルトガル・スペイン・イタリア・フランス・オランダ、そして日本という各国語にわたるまことに膨大な量の原史料と研究書の精査を踏まえている。キリシタン布教は大航海時代の所産であることが、本書によって明示された。世界史の中に当該時代の日本を据えて俯瞰する、世界史上にキリシタンを位置づける――これがボクサーによって初めてなされたと言ってよいであろう。なお彼の業績の中には、ポルトガルやオランダの重要な史料本文の翻訳と研究、および彼が行った数多くの講演の記録を出版した著書も少なくない。

 

キリスト教信仰にとらわれない歴史学

19世紀末から21世紀初にかけて生きた偉大なキリシタン史研究者を挙げるなら、シュルハンマー、ヴィッキ、シュッテ、ロペス・ガイ、アルバレス、そしてボクサーの6人であろうか。最初の4人はイエズス会士、5人目のアルバレスはイエズス会士ではないが、熱心なスペイン人カトリックである。こう見てくると、カトリックではないボクサーの著作の持つもう一つの重要な意義が鮮明になる。歴史学の方法・手順を踏んで研究し論述する以上、個人の信仰事情など無関係のはずであるが、そうは言えないところにカトリックの歴史であるキリシタン史の特殊事情がある。私が若い頃本書に傾倒し邦訳を志すまでになったのは、彼の学識の深さは勿論であるがもう一つ、研究対象を客体化する点でどうしても或る種疑問を拭えないカトリック系学者の著書・論文に対して、ボクサーの作品に見られる渇を癒すがごとき新鮮さに惹かれたからであった。

 
[書き手]高瀬 弘一郎(たかせ こういちろう)
1936年、東京に生まれる。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学、慶應義塾大学文学部教授。現在、慶應義塾大学名誉教授。


〔主な著訳書〕
『キリシタン世紀の日本』(八木書店、2021年)
『キリシタン時代の研究』(岩波書店、1977年)
『イエズス会と日本』一・二〔二は岸野久との共訳〕(岩波書店、1981年・1988年)
『キリシタンの世紀』(岩波書店、1993年)
『キリシタン時代対外関係の研究』(吉川弘文館、1994年)
『キリシタン時代の文化と諸相』(八木書店、2001年)
『キリシタン時代の貿易と外交』(八木書店、2002年)
『モンスーン文書と日本―十七世紀ポルトガル公文書集―』(八木書店、2006年)
『大航海時代の日本―ポルトガル公文書に見る―』(八木書店、2011年)
『新訂増補キリシタン時代対外関係の研究』(八木書店、2017年)
『キリシタン時代のコレジオ』(八木書店、2017年)
キリシタン世紀の日本 / C・R・ボクサー
キリシタン世紀の日本
  • 著者:C・R・ボクサー
  • 翻訳:高瀬 弘一郎
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(728ページ)
  • 発売日:2021-07-02
  • ISBN-10:4840622388
  • ISBN-13:978-4840622387
内容紹介:
葡・西・蘭・仏・日など諸国語の膨大な原史料と研究を読み解き、大航海時代の歴史を広い視野から透徹した名著が、日欧交渉史の泰斗による日本語翻訳版で初刊行!〔原著〕Charles Ralph Boxer,… もっと読む
葡・西・蘭・仏・日など諸国語の膨大な原史料と研究を読み解き、大航海時代の歴史を広い視野から透徹した名著が、日欧交渉史の泰斗による日本語翻訳版で初刊行!

〔原著〕Charles Ralph Boxer,The Christian Century in Japan 1549-1650, University of California Press,(1951) second printing,corrected,1967.

●原史料の読解と深い学識を備えた英国人・ボクサーの名著
各地の文書館が所蔵するイエズス会原史料を渉猟し、高い教養と当該時代に関する深い学識を備えた、英国人研究者のチャールズ・ラルフ・ボクサー(1904-2000)。1951年に初版が刊行されてから70年が経過した今日でも必読すべき本書、本邦初の日本語訳で公刊。

●キリシタン時代の日本を世界史的な視野から俯瞰
カトリック教会関係者やカトリック側から歴史を見る外国人研究者が断然優位に立つ中で、著者ボクサーは、キリシタン時代の日本を世界史的視野から俯瞰し、大航海時代の日本におけるカトリック布教を、通史的に著述し、極めて有意義な史観を有する。

●国内史的、カトリック的思考を省察
日本史上初めて価値観を異にする諸外国との関係、カトリックとの関係が、重要な史的要因となるキリシタン時代。キリスト教徒ではあるが非カトリックの学識深いイギリス人ボクサーの歴史に対する見方や解釈は、これまでの国内史的、カトリック的思考を省察するきっかけとなる。そうした中、キリシタン布教は大航海時代の所産であることを明確に示す。

●キリシタン交渉史の第一人者による翻訳と解説
訳者の高瀬弘一郎は、研究書『新訂増補 キリシタン時代対外関係の研究』や史料集『モンスーン文書と日本―十七世紀ポルトガル公文書集―』(いずれも八木書店刊)などを著したキリシタン交渉史の第一人者。本書の末尾には、訳者による解説と索引を付す。

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ALL REVIEWS 2021年9月21日

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