自著解説

『室町幕府将軍直臣と格式』(八木書店出版部)

  • 2024/02/29
室町幕府将軍直臣と格式 / 西島太郎
室町幕府将軍直臣と格式
  • 著者:西島太郎
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(572ページ)
  • 発売日:2024-02-28
  • ISBN-10:4840622779
  • ISBN-13:978-4840622776
室町幕府の足利将軍家を支えた将軍直臣の編成形態とその構造を、幕府儀礼や家格のあり方から解明を試みる。

足利将軍家の軍隊――奉公衆

室町幕府における足利将軍家の直臣といえば、5つの番に編成され「番衆」と呼ばれた「奉公衆」を思い浮かべる人が多いであろう。番衆(奉公衆)は、最盛期で総数320~340人程度の足利将軍家の軍隊である。将軍直臣であることから、その所領には守護を関与させない様々な特権が付与された。守護権力を掣肘する役割が与えられ、各番の結束力の強さを特徴とし、1493年の明応の政変によって崩壊したとされる。これは1980年代に形成された将軍直臣像である。

この直臣像は長く通説であったが、将軍直臣は番衆(奉公衆)だけではなかった。これまでの将軍直臣研究は、番衆(奉公衆)に限定した研究だったのである。


奉公衆研究の転換点

私は、将軍を支えた奉公衆と言われてきた近江の朽木氏を研究していた。朽木氏の政治動向と所領支配、同族の西佐々木七氏の一揆について、2006年に『戦国期室町幕府と在地領主』(八木書店)としてまとめた。この研究で気づいたのは、番衆(奉公衆)になっている者はいずれも朽木氏の庶子であり、惣領は外様衆に編成されていたことである。では外様衆とは何なのか。その頃、外様衆について明らかにした研究はなく、実態としてもよくわからず課題として残った。


奉公衆研究から将軍直臣研究へ

その後、私は外様衆について本格的に研究を行った。外様衆は、結束力の強い番衆とは対照的な存在で、番衆より上位の家格にあり、将軍直臣のなかでも最上位に位置づく。しかしその内部は、大外様・外様・小外様に序列化されていたため結束力はなかった。番衆の上位に位置する御供衆は15~16人前後、最上位の外様衆は大外様が12人前後、外様が40~50人程度いた。そして外様衆や御供衆は、守護になることもあることが分かってきた。

このたび上梓した拙著『室町幕府将軍直臣と格式』(八木書店)の一部を述べたが、この書では、室町幕府の足利将軍家を支えた将軍直臣の編成形態とその構造を、幕府儀礼や家格のあり方から解明を試みている。これは従来の在地領主研究が、下部構造を探る領主制論や横のつながりを追求する一揆研究を重視してきたことに対し、上部構造との繋がりが課題であるとの認識からである。


将軍直臣の家格と序列

室町幕府は有力大名(守護)達の連合政権的要素が強く、足利将軍家と並ぶ実力の持ち主が多く存在した。鎌倉時代の将軍は遷替可能なものであったこともあり、室町幕府の足利家が将軍であり続けるには、同家が他の大名(守護)より優位な勢力を形成する必要があった。その対策の一つが有力大名の勢力削減であり、もう一つが足利将軍家自らの力を蓄える方向性である。それは守護を介さない将軍直属の御家人、すなわち将軍直臣の整備であった。

3代将軍足利義満期に、諸国の大族を5つに分け番衆(奉公衆)が形成された。さらに6代将軍足利義教は近習を外様衆として編成し、番衆を中核に外様衆をも含めた将軍直轄軍を整備した。8代将軍足利義政期に、番衆の番頭格を含めた御供衆が外様衆と番衆の間に設定された。外様衆・御供衆・番衆はいずれも将軍へ直結し、将軍へのお目見えが許される直臣である。江戸幕府でいえば「旗本」に相当する。

戦国時代の室町幕府は、在国による守護・大名の軍勢が期待できなくなるなか、将軍直臣が足利将軍家を支える存在として機能していく。明応の政変後の将軍直臣は、番衆だけでなく直臣全体を「奉公衆」として認識されて、直臣全体が一体化して将軍を支える存在となっていくのである。


出雲尼子氏が下剋上を成し遂げるための家格

このような家格のあり方と、守護職との関係を動態的にみることができるのが、出雲尼子氏の事例である。尼子氏は主家京極氏の被官から、主家の守護職を簒奪し下剋上した戦国大名というのが一般的な理解である。実力により勢力を拡大したとする見解や、守護の権限を「国成敗権」という言葉に置き換え、この権限を京極氏から引き継いだと理解する見解などがあった。

しかし室町幕府の家格のあり方からみると、尼子氏は京極氏被官から将軍直臣へと立場を変えていた。直臣のなかでも守護になることのできる外様衆に編成されており、外様衆格であることで出雲・隠岐両国の守護職を獲得したものと考えられた。将軍直臣になることで、出雲・隠岐両国内の国人より上位の家格を手に入れ、守護補任の手がかりを得たのである。

課題とすべき点も多くあるが本書では、将軍直臣からみえてくる室町幕府の家格秩序の一端を提示し得たのではないかと考えている。

[書き手]
西島 太郎(にしじま たろう)
1970年滋賀県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程(後期課程)修了。博士(歴史学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、松江歴史館学芸員を経て、現在、追手門学院大学文学部教授。

[主な著書]
『戦国期室町幕府と在地領主』(八木書店、2006年)
『史料纂集 朽木家文書』第一、二(共校訂、八木書店、2007・2008年)
『京極忠高の出雲国・松江』(松江市教育委員会、2010年)
『野口英世の親友・堀市郎とその父櫟山』(ハーベスト出版、2012年)
『松江藩の基礎的研究』(岩田書院、2015年)
『松江・城下町ものがたり』(戎光祥出版、2020年)
『室町幕府将軍直臣と格式』(八木書店、2024年)
室町幕府将軍直臣と格式 / 西島太郎
室町幕府将軍直臣と格式
  • 著者:西島太郎
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(572ページ)
  • 発売日:2024-02-28
  • ISBN-10:4840622779
  • ISBN-13:978-4840622776

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

ALL REVIEWS

ALL REVIEWS 2024年2月29日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
八木書店出版部の書評/解説/選評
ページトップへ