自著解説

『守光公記2』(八木書店出版部)

  • 2021/06/08
守光公記2 / 中世公家日記研究会
守光公記2
  • 著者:中世公家日記研究会
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(415ページ)
  • 発売日:2020-12-01
  • ISBN-10:4840652082
  • ISBN-13:978-4840652087
内容紹介:
戦国時代に長期にわたって武家伝奏を勤めた広橋守光(1471~1526)の日記と別記。
応仁・文明の乱ののち、経済的に困窮する朝廷と権力の凋落が著しい足利幕府とのせめぎあい!?

公家と武家のはざまで交渉に苦労する武家伝奏広橋守光の日記を、32年の歳月をかけ、翻刻出版が完成!解題・詳細索引(人名・地名・件名)付き。


記主について

記主広橋守光は、文明3年(1471)、町広光の子に生まれ、広橋家の養子となった。町・広橋両家は藤原北家の日野一族の支流である(国史大系『尊卑分脈』)。朝廷への出仕は文明11年8月である(『お湯殿の上の日記』)。『守光公記』に記述される以前の守光については、共同翻刻者の一人、湯川敏治氏が、令和2年(2020)12月「廣橋家旧蔵記録文書典籍類研究会」(代表家永遵嗣氏)で「『守光公記』執筆以前の廣橋守光」という研究発表を行い、『守光公記』以前の守光を取り上げた。

もう18年前であるが、私(鶴崎)が平成15年(2003)7月号の『日本歴史』に「『守光公記』は面白い」と題して、永正9年に起こされた大経師良椿の訴訟を紹介した。陰陽寮の暦博士が制作する暦を独占的に刊行する大経師の職を巡る良椿と良精の訴訟である。今回『守光公記』の完成を機に、柴田真一氏が「『守光公記』と広橋守光」(仮題)の出版を計画している。

以下に『解題』に記した以外に注目したい記事を紹介する。



朝廷の困窮 後柏原天皇即位

戦国時代、禁裏の財政は逼迫していた。天皇の即位は延期が繰り返された。後柏原天皇は明応9年(1500)後土御門天皇の崩御の後を承けて践祚したが、即位の費用がない。『守光公記』永正9年4月19日条に「御即位要脚美濃国段銭事、度々被成奉書之処、依南宮遷宮、当年之儀難事行□□(之処ヵ)」とある。同年閏4月14日条には「美濃国段銭事、度々雖被成御下知、于今無沙汰太不可然」とある。永正10年12月12日条にも即位について守光たちは協議するが実行されない。永正12年6月26日条に「依唐船帰□□□用途事、被仰遣右京大夫、是御即位可有始行□□沙汰」とあるが、即位が行われた記事はない。実際、後柏原天皇の即位が行われたのは大永元年(1521)3月22日で、践祚の後、21年目のことである。

 

禁裏の庭仕事をする、御庭小法師の裁判

『守光公記』永正10年9月4日条に「又御庭小法師申牛馬皮公事之事申入処、内々長橋折紙如斯」とあって、禁裏の庭仕事をする小五郎という小法師が近江国志賀郡(滋賀郡)と高島郡の牛馬の皮公事について長橋局東坊城松子の処に訴えを起こした。長橋局から守光の処に善処するよう書状が送られた。同年9月16日条、同年12月23日条、永正11年7月(2日から8日の間)御庭小法師に関して女房奉書が載る。永正12年3月1日条、永正14年6月15日条、同年10月27日条にも守光宛女房奉書がある。禁裏御庭者の史料がこのようにまとまって見ることができる記録である。

 

暦の印刷や販売を扱う大経師良椿・良精の訴訟

永正9年3月17日条に「大経師良椿来、自訴之事也」とあって、暦の印刷や販売を扱う大経師の良椿が後柏原天皇の女房奉書を持って自訴に来たのである。暦は飛鳥時代より中国からもたらされた陰陽道に基づき暦が作られ、それを印刷し、販売する(摺暦)のが大経師であった。この権利を巡って大経師の良椿と良精が印刷販売の権利を争った訴訟である。この訴訟については末柄豊氏の論考(「中世の経師について」勝俣鎮夫編『中世人の生活世界』山川出版社 平成8年3月)があるが、暦を巡っての訴訟であり、朝廷が関与し、女房奉書が出されることが興味深い。我々にとって、朝廷は「雲上の事柄」と思いがちであるが、先に見た御庭者の小法師といい、大経師の良椿・良精といい、一般的な、決して身分の高いとはいえない者の訴訟が取り扱われている。

 

禁裏御料所、伊勢国栗真庄

中世はまさに荘園の世界であり、『守光公記』にも伊勢国奄芸郡栗真庄など頻繁に記されている荘園がある。栗真庄は禁裏御料所で、初出は永正9年正月21日条で、知仁親王の御元服料所の一つとしてあげられている。永正10年2月24日条に「栗真御年貢五千疋運送之由申、則令申長橋処、旧冬五千疋、以上万疋由可披露由有返答者也」とあって禁裏の収入として大きな位置を占めることが判る。この栗真庄には加田二郎左衛門なる人物が度々登場する。栗真庄と加田二郎左衛門に焦点を当てて論ずることもできよう。


『守光公記』にはさまざまな研究テーマが存在する。『守光公記』は、『大日本史料』などに、永正10年以前(第一巻)、の記事はほとんど収録されていない。この出版を機に若い研究者や大学院の学生諸氏に大いに利用され、新しい研究の対象となることを期待する次第である。

[書き手]鶴崎裕雄(つるさき ひろお)
1935年大阪市生まれ。元帝塚山学院短期大学学長、帝塚山学院大学人間文化学部教授。現在帝塚山学院大学名誉教授。中世史・中世文学専攻。中世公家日記研究会代表。

【主要著書】
『戦国の権力と寄合の文芸』(和泉書院 1988)
『戦国を往く連歌師宗長』(角川叢書 2000)
守光公記2 / 中世公家日記研究会
守光公記2
  • 著者:中世公家日記研究会
  • 出版社:八木書店出版部
  • 装丁:単行本(415ページ)
  • 発売日:2020-12-01
  • ISBN-10:4840652082
  • ISBN-13:978-4840652087
内容紹介:
戦国時代に長期にわたって武家伝奏を勤めた広橋守光(1471~1526)の日記と別記。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

ALL REVIEWS

ALL REVIEWS 2021年6月8日

関連記事
八木書店の書評/解説/選評
ページトップへ